司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2020年8月

8月 26 2020

遺言書保管制度 遺言⑲

相続法改正前の自筆証書遺言の弱点

遺言には大きく分けて自筆証書遺言公正証書遺言があります。
その中でも自筆証書遺言は「自分で書ける」という手軽さもあって選択されることが多い傾向があります。しかし、自筆証書遺言には厳格なルールがあるため、遺言を残した人が亡くなった後に開けてみたら、ルールにあっていなくて無効になったというケースも多いという弱点があります(実際に私の事務所に遺言を持って相談に来られた相続人の中にも、何人か無効になった方がいました)。

家庭裁判所の検認

他にも自筆証書遺言の最大の弱点と言われていたのが、家庭裁判所の検認の手続です。
相続法が改正される前、自筆証書遺言は作成者が亡くなった後、家庭裁判所で検認を受けなければ、その後の預貯金や不動産の相続手続ができないというルールがあったのです。これがネックになって自筆証書遺言を選択しないというケースも結構ありました。

家裁の検認とは

家裁の検認とは、原則として開封前の自筆証書遺言を家裁に持ち込んで、家裁から法定相続人全員に遺言の存在を知らせた上で、家裁によって遺言を開封して中身を確認することです。確認後に家裁の検認済みという証明書を遺言に添付してくれます。検認済みの証明書が添付されていないと自筆証書遺言は相続手続に使うことができません。
この検認手続は結構な時間がかかります。1カ月くらい(法定相続人が多い場合はもっと)は相続手続が遅れることになります。

遺言書保管制度

相続法が改正されて自筆証書遺言の取り扱いが大きく変わりました。これは政府が相続手続をスムーズに進めるために遺言をもっと活用して欲しいという考え方があります。(遺言が無いと相続人同士でもめて、相続手続がなかなか進まないことが多くなってきたという事情があります)
そこで新設されたのが遺言書保管制度です。自筆証書遺言を法務局で預かって紛失や改ざんを防ごうという目的です。

遺言書保管制度のメリット

従来、自筆証書遺言の弱点として、

    ①せっかく書いたのに発見されない
    ②遺言のルール通りに書かれていないため無効になる
    ③紛失や破損の心配がある
    ④家裁の検認が必要

などがありました。

しかし、遺言書保管制度はこれらの弱点を改善する制度として作られたので以下のようなメリットがあります。

    ①相続人は法務局で検索することができるので発見がしやすい
    ②遺言の形式がルールどおりに書かれているかを法務局がチェックするので、形式不備は起こりにくい。(あくまで形式だけです。内容が法律にあっているかまではチェックされないと考えた方が良いでしょう)
    ③法務局に保管されているので紛失や破損の恐れが無い
    ④家裁の検認が不要。(大きなメリットです)

自筆証書遺言が利用しやすくなった

相続法改正前は自筆証書遺言には様々な弱点があったために、司法書士などの相続の専門家は公正証書遺言をすすめることが多かったのが事実です。私も以前は公正証書遺言をすすめていました。
しかし、相続法が改正されて遺言書保管制度ができて、自筆証書遺言の弱点は大幅に改善されました。特に大きかったのは家庭裁判所の検認が不要になった点です。
もともと自筆証書遺言は公正証書遺言よりも費用的に安いというメリットがありました。今回の遺言書保管制度により、専門家が自筆証書遺言をすすめるケースも増えてくると思われます。

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遺言

8月 24 2020

富山家裁は回答書が不要 相続放棄⑯

相続放棄の回答書とは

相続放棄の申立てをすると、一般的には申立て後しばらくすると回答書という書類が家庭裁判所から郵送されてきます。これは本人の最終意思を確認するという目的で送られるもので、本人が直筆で回答して署名押印してから家裁に返送するというスタイルになっています。

相続放棄の回答書が送られる理由

相続放棄はやり直しがきかない手続です。相続放棄をした後で「気が変わったので、やっぱりやめます」とは言えません。相続放棄の撤回は法律上、認められていないのです。
例外的に取り消しが認められる場合もありますが、極めてハードルが高く非常に難しいのが現実です。
ですから、回答書で再び本人の意思確認をして、「本当に相続放棄をして大丈夫ですね」と念を押しているのです。

回答書の内容

回答書の質問事項は家庭裁判所によって異なります。よくある質問としては以下のようなものがあります。

    「あなたは自分の意志で相続放棄の申立てをしたのか」
    誰かに強制されて相続放棄をしたのではないという確認ですね。
    「あなたが被相続人の死亡を知ったのはいつか」
    熟慮期間(3カ月)をいつから計算するかに関する質問です。この日付が死亡日から3カ月以上経っていた場合は、別途説明が求められます。
    「あなたは、どういう理由で相続放棄をしたのか」
    債務超過と言う理由が圧倒的に多いと思いますが、亡くなった親族と疎遠でもらうつもりが無いという回答もあります。

これらが代表的な質問ですが、家裁によって質問が多いところや少ないところ色々です。

(マメ知識)
債務超過とは、マイナスの財産(借金)の方がプラスの財産よりも多い状態のことを言います。相続放棄のほとんどの理由は債務超過でしょう。

ほとんどの家裁で回答書が届く

私の事務所でも全国色々な家庭裁判所に相続放棄の申立てをしましたが、ほとんどの家裁で回答書は郵送されてきます(質問の内容は異なりますが)。
しかし、富山家庭裁判所高岡支部に相続放棄の申立てをしたところ、回答書が郵送されずに、いきなり相続放棄申述受理通知書が届きました。ようするに他の家裁よりも短期間に手続が終了するのです。

(マメ知識)
相続放棄の申立(申述)は被相続人(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出しなければなりません。相続人の住所地ではないので注意しましょう。

富山家裁高岡支部は例外的だと思う

相続放棄の回答書は、後で撤回ができない手続なので最終の意思確認として送っているという理由があります。従って、「回答書を送らない」という富山家裁高岡支部の取り扱いは例外的で珍しいと言えます。
早くに手続が終了するというメリットはありますが、やり直しがきかない手続きであるため、より慎重になる必要があります。
しかし、どこの家裁に出すかは法律で決まっているので、富山家裁高岡支部管轄の地域で亡くなった方の相続人の相続放棄には、こういう特徴があると覚えておいた方が良いでしょう。

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相続放棄

8月 21 2020

農地の相続 相続登記(22)

農地とは

不動産の登記における農地とは、法務局で取得する登記事項証明書の「地目」の欄に「田」または「畑」と記載されている土地のことを言います。実際には耕作が行われていなくて農地として使われていなかったとしても、地目が田や畑になっていれば農地とみなされます。

農地は売買や贈与の時は農地法の許可が必要

国が定めたルールで、農地は勝手に他人に渡してはいけないことになっています。食料を生産する大事な土地なので、農業以外の目的で利用する人に自由に渡してしまうと、食料生産がどんどん減ってしまいます。

これを防ぐために農地法という法律が作られ、農地の売買や贈与には許可が必要と言うルールになっているのです。農地法の許可証は法務局で登記申請する時の必要書類になっていますので、添付しないと審査が通りません。

農地の相続には許可は不要です

ただし相続の場合は例外として、農地法の許可は不要という取り扱いになっています。
相続の場合は後を継いで農業を続ける確率も高いですし、法律上、亡くなった瞬間に相続人に所有権が移ると考えられているので、許可を条件にすることが難しいという理由もあります。

(マメ知識)
相続人が複数いる場合は遺産分割協議が済むまで相続人のものにならないように思うかもしれませんが、法的には、分割協議で決まった相続人に所有権が移る日付は故人の死亡日になります。分割協議が終了した日ではないのです。

農地を相続した後、売却したい時は許可が必要

最近は農家の相続でも相続人は都会にいて、農地を相続しても使いみちが無いから売却したいという相談も増えています。この時にネックになるのが農地法の許可です。

農地法の許可を取り扱うのは地元の役所の農業委員会ですが、基本的には農地として使ってくれる人が買主でないと、なかなか許可を出してもらえません。食料生産のための農地をできるだけ減らさないというのが農地法の趣旨だからです。

農地以外にして売却したい時は農地転用の許可

農地の地目を例えば「宅地」などに変更することを農地転用と言います。農地転用ができれば農家以外の人にも自由に売却することが可能です。しかし、農地転用するにも許可が必要なのです。
農地転用は比較的住宅街に近い農地などは認められやすい傾向がありますが、周りが全て農地のような環境では認められる可能性は低いです。

農地の移転の日付は許可された日

通常の不動産売買の場合、決済日が所有権移転の日付になることが多いです。しかし、農地の売買の場合は農地法の許可が降りないと所有権が移転しません。もし許可が降りた日が決済日よりも後だった場合は、所有権移転の日付は許可が降りた日になります。

(マメ知識)
よく名義変更と言う言葉を使いますが法的には正確ではありません。正式な用語は所有権移転と言います。登記事項証明書でも所有権移転と書かれています。法的には、所有権がAさんからBさんに移転したという考え方をするのです。

農地の相続は気を付けよう

農地を相続した場合、そのまま農家を続けるのならば問題ありませんが、不要だから売却したいと考えた場合、農地法の許可の問題があります。早めに専門家に相談した方が良いでしょう。

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相続登記

8月 21 2020

相続した不動産を売却した時の固定資産税の取り扱い 相続登記(21)

相続した不動産の売却

相続登記の相談の中で比較的多いのが、「相続した不動産を売却したいので、相続登記をして欲しい」というものです。故人の名義から買主の名義に直接移すことは法律上、認められていません。必ず相続人の名義に移してからでないと売却できないのです。

売却した時、固定資産税はどうなるのか

では不動産を売却した時、売主が支払った固定資産税はどうなるのでしょうか。
まずは原則から見ていきましょう。
原則では、「固定資産税はその年の1月1日時点の名義人に対してかかる」というルールになっています。従って、原則通りなら売主が全額支払うことになりそうです。

しかし、これは役所の都合で決められた原則なので(こうやって決めてしまった方が役所はやり易いから)、非常に不公平です。従って、一般的な商習慣ではより公平な取り扱いをすることになっています。

不動産取引の現場では、固定資産税は日割で分割する

より公平にするためには、買主に名義が移ってからは買主が支払う方が良いでしょう。そのため、不動産取引の現場では、売主が固定資産税を支払った後の場合、1年間を日割して買主分の金額を計算して、決済の時に買主から売主に支払ってもらうのが通常のやり方になります。

固定資産税の基準日は4月1日から3月31日

固定資産税は1月1日の名義人にかかるのですが、基準となるのは4月1日から3月31日までの1年間です(地域によっては1月1日から計算するところもあると聞いています。少なくとも愛知県周辺は4月1日からです)。
ですから日割計算する時も、4月1日から3月31日までで計算します。

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8月 03 2020

養子は実の親の遺産も相続できる 相続登記⑳

2つの養子制度

養子には2種類の制度があります。一つは普通養子、もう一つは特別養子です。
普通養子は、養子に行った後も実の親との縁が切れません。一方、特別養子は実の親との縁が切れてしまいます。
特別養子は要件が厳しく簡単には認めてもらえません。実の親との縁を切った方が良いと思われるような事情(例えば虐待など)がある場合に特別に認められるものです。従って件数はあまり多くありません。
日本における養子のほとんどは普通養子になります。

普通養子の相続

普通養子の場合、親は実の親と養親の2組存在することになります。従って、相続の時も実の親からも、養親からも相続することができます。
一見、非常に得なように思えますが、そうとばかりも言えません。なぜなら、どちらかの親(あるいは両方)に借金がある場合も相続人になってしまうからです。

養子について良くある誤解

不動産の相続登記や遺産分割協議の相談を受けるとき、兄弟姉妹の一人は養子に行ったから今回の相続人にはならないと考えている方が珍しくありません。しかし、これは大きな間違いです。

普通養子の場合、実の親との戸籍上の縁は切れていません。従って、実の親が亡くなった時の遺産相続の相続人に養子に行った子は含まれます。当然に養子に行った子を除いた遺産分割協議は法的に無効となります。遺産分割協議ができなければ不動産の相続登記もできません。大事なことなので注意しましょう。

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