7月
25
2011
名古屋簡易裁判所は大規模簡裁と呼ばれています。簡易裁判所の、ほとんどは裁判官が一人ないし二人で全ての事件の処理をしている小規模な裁判所です。それに対して、東京・大阪・名古屋などの大都市の場合、事件数が多いので通常の規模では、とても処理が出来ません。それで特別に規模の大きい簡易裁判所が設置されている訳です。
名古屋簡裁の場合、民事裁判を担当する裁判官の数は8人です。それぞれ係に分かれていて、名古屋簡裁に訴状を出すと1係から8係までの、どれかの係に係属することになります。
よく依頼人に質問されることで、「先生の経験上、債務者有利の判決を書いてくれそうな係に出したいのですが」というのがあります。残念ながら、この質問の回答は「無理です。こちらから係を選ぶことは出来ません」となります。
私としても係を選ぶことが可能ならば、過去に有利な判決をもらったところに出したいのは、やまやまですが、どの係に係属するかは全くの運になります。(係属した係が分かった段階で、喜んだり、がっかりしたりということは法律家ならば誰でも経験があることでしょう)
また前にも書いたことがありますが、係によって違うのは法律的な判断だけではありません。何と細かい事務手続まで違っていることがあります。
例えば、過払訴訟の最中に和解が成立した場合、過払金の入金日が次回の弁論期日の後だった場合、弁論期日を入金日の後にずらしてもらう(これを期日の変更と言います)という手続があります。これを簡単に認めてくれる係と、入金日が離れていると認めてくれない係があったりします。
認めてくれない係に当たった場合は、裁判所に出掛けていって和解決定という手続を取らなければなりません。この辺の事情は完全に事務手続の問題なので統一してもらいたいというのが私の強い希望でもあります。(このような事務的なことが、同じ裁判所の中の係によって違っているというのは、一般人からすれば結構、驚きなのではないでしょうか)
しかも、面白いことに(我々、法律家からしたら大変なことに)、人事異動で係の担当裁判官が変わると、また事務手続の処理方針が変わったりするのです。
先ほどの例で言うと、今まで期日変更が出来なかった係が、裁判官が異動した途端に出来るようになったというようなことが珍しくないのです。(もちろん裁判官が異動になった後も方針が変わらないこともあります)
従って、法律家に負担がかかる処理方針の係の場合、法律家同士で酒を飲みながら、「早く、あの係の裁判官、異動にならないかな」などという話題で盛り上がることになります。
ここまで読んできて、読者の方にも裁判所における裁判官の影響力の強さというものが分かって頂けたかと思います。(言い方は悪いかもしれませんが、ほとんど独裁者と呼んでも、当たらずとも遠からずというほどの力を裁判所に対して持っているということです)
ただ実を言うと、名古屋のような大規模簡裁の管轄の場合は、まだマシなのです。これが裁判官が一人しかいない簡裁(ほとんどの簡裁が一人です)の場合、その管轄区域で訴状を出したら必ず、その裁判官に当たってしまう訳です。避けることは出来ません。ということは債務者に厳しい方針の裁判官がいた場合、その裁判官が異動になるまでは、その簡裁に出された訴訟は他の簡裁よりも不利になることが現実にありえるのです。これは非常に困った問題です。(逆に貸金業者にとっては喜ばしい裁判所ということになります)
名古屋の場合は裁判官が多勢いますので少なくとも、いつも必ず不利になるということはありません。この点は大規模簡裁の良いところだと思います。
7月
19
2011
最近、取引の途中で空白期間のある場合で、新しい最高裁判決が出ましたので紹介したいと思います。
この判決は相手がプロミスだったのですが、途中に最短でも約1年6ヶ月の空白期間がある取引が対象になりました。そこで契約書に自動更新規定があるから、この取引は一連一体で計算すべきと債務者側は主張していて、この主張が退けられたのです(要は裁判に負けたのです)。
最高裁ですから、判決は確定して全国に影響を与えることになります。今後は契約書に自動更新規定があることを理由に取引の一連一体を主張することは出来なくなります。
それよりも、より大きな影響を与えそうなのは取引の空白期間の長さです。今後は、1年6ヶ月以上の空白期間のある取引は分断された別の取引だと判断されるケースが増えるだろうと予想されます。
実は、判決では1年6ヶ月以上の取引がダメだと言っている訳ではありません。契約書の自動更新規定だけで一連計算を認める訳にはいかないから、第一取引の長さとか、空白時の業者と債務者の接触状況とか、空白期間の長さとか、契約書の返還の有無とか、以前の判決でも指摘された色々な条件を吟味した上で判断しろと言っています。だから、厳密には、この判決で1年6ヶ月以上が一律に認められないと言っている訳ではないのです。
しかし、残念ながら、理屈どおりには受け取られないのが裁判です。恐らく今後の下級審(最高裁以外の裁判所のこと)の判断は、1年6ヶ月以上の空白期間に対しては非常に厳しいものになるでしょう。
7月
11
2011
過払金請求訴訟などで最もよく登場するのが簡易裁判所です。でも、テレビや映画などの法廷シーンで良く見るのは地方裁判所の方でしょう。では、この違いはと言われた場合、一般の人は結構、知らないのではないでしょうか。今回は、この疑問にお答えする為、簡易裁判所と地方裁判所の違いについて取り上げます。(今回、取り上げるのは民事事件についてです)
最も簡単に言うと、簡易裁判所は金額の低い事件、地方裁判所は金額の高い事件を担当します。では、金額の高い低いは何を基準に決めるのかと言えば、一つの事件につき140万円が区分けのラインになっています。
140万円以内ならば簡易裁判所の事件、140万円を1円でも越えると地方裁判所の事件として扱われます。これは一事件あたりの金額なので、例えば過払金訴訟の場合は業者ごとに判断されます。Aさんが甲・乙・丙と3社から借りていて、3社とも過払いが発生していた場合、それぞれ3件の事件として裁判所に申し立てます。過払金が甲は50万円、乙が80万円、丙が150万円だった場合、甲と乙に対する訴訟は簡易裁判所に申し立て、丙に対する訴訟は地方裁判所に申し立てることになります。(たまに一部の弁護士が3社の合計額で判断するようなことを言っている場合がありますが、それは明らかにおかしいですね。そもそも裁判所が、そのような取り扱いをしていません)
地方裁判所は各都道府県に1箇所ずつ置かれています。支部も合わせると、もう少し多くなります。例えば、愛知県だと名古屋地方裁判所が一つあるだけですが、名古屋地裁の支部は、一宮支部、半田支部、岡崎支部、豊橋支部と4箇所ありますので、本庁と合わせると5箇所あることになります。
一方、簡易裁判所は全国に400箇所以上設置されており、非常に数が多いのが特徴です。これだけ数が多いと住んでいる場所の割と近くに一つは簡易裁判所がある計算になります。(ほとんどの人は、かかわりが無い為、近くにある簡易裁判所の存在を知らないでしょう)何故、これだけ数が多いのかと言うと、いわゆる業者事件と言われるものが、ほとんどが140万円以内だからです。
業者事件とは、裁判の中でダントツで数が多い事件で、消費者金融、クレジット会社、携帯電話会社などが滞納された未払いの貸金や商品の分割金、携帯の通話料などを請求する事件のことです。簡易裁判所に行って1日、傍聴席に座ってみれば分かりますが(傍聴は誰でも自由です)、びっくりするほど、入れ替わりたちかわり、金融業者の担当、クレジット会社の担当、携帯会社の担当が現れて原告席に座っています。
これらの業者訴訟は証拠も揃っていますし、滞納の事実も相手方が否定しませんので数は多いですが、もめることは余りありません。ただ数が多いので、事務手続きは膨大な量になるでしょう。
それに加えて最近、急激に増えてきたのが過払金訴訟です。過払金訴訟の8割から9割が簡易裁判所の管轄になりますから、地方裁判所に回る事件は少数派です。たまに過払金訴訟が増加して裁判所が人員不足で困っているということが言われますが、圧倒的に簡易裁判所に持ち込まれる数が多い訳ですから、地方裁判所が同じことを言うのは何だか違う気が私はします。
あと、債務整理に関して言えば、特定調停は簡易裁判所限定の制度です。ここは分かりにくい部分かもしれませんが、特定調停に関しては金額に関係なく簡易裁判所で行われます。300万円でも500万円でも特定調停ならば簡易裁判所になるのです。一方、過払金請求訴訟の場合は、先ほど説明したとおり、過払金の金額によって簡易裁判所か地方裁判所に分かれます。この場合の金額は過払金の元金のことで利息は含まれません。例えば、過払金元金が130万円で過払利息が20万円だとします。合計で150万円で140万円を超えてしまいますが、元金が140万円以内なので、この訴訟は簡易裁判所になります。
他には、自己破産と個人再生については金額に関係なく全て地方裁判所の扱いになります。ただし破産と再生を扱うのは地方裁判所と言っても過払金訴訟を扱うところとは違う部署になります。過払金訴訟を扱うのは民事部あるいは民事訴訟部というところですが、破産や再生は民事執行部というところが扱うのが一般的です。民事執行部は通常の民事部からは独立していることが多く(名古屋の場合は建物が別です)、専門部署のようなところです。ここは破産・再生の他、各種差押などの手続を行っています。判決を取っても過払金を支払わない業者に対して差押をしたい時なども、この部署のお世話になるわけです。
7月
04
2011
一般の人は同じ種類の事件ならば、全国どこの裁判所でも同じ判決が出るんだろうと思いがちですが(私も法律家になる前は、そう思っていました)、ところが実態は全く違います。裁判所とは極めて特殊な役所で同じ種類の事件でも裁判所によって、もっと正確に言うと一人一人の裁判官によって異なる判決が出ることが珍しくありません。(信じられないかもしれませんが同じ裁判所であっても、異なる裁判官に当たると違う判決が出たりする訳です)
裁判所の、この特徴が一般の人にはなかなか分かりにくいらしく相談の時に、「この事件の結果を保証できますか。」という質問になりやすいのです。
しかしながら、この質問には、法律的な争点(法律的な解釈において相手方と意見が違うこと。例えば「借金を完済しているかどうか」で争いになった場合は、事実が正しいかどうかという問題なので、法律的な争点とは言いません)のありそうな事件の場合は、「保証はできません」というのが真実なのです。何故なら、先ほども説明したように、裁判官によって判断が異なるのが珍しくないのが裁判というものだからです。
もっとも、極めて単純で法律的な争点があまりなく、証拠が完璧に揃っている場合は、どこの裁判所でも、だいたい同じ判決が出ると考えて良いでしょう。代表的なのは、借主の署名・押印のある借用証書が存在している場合の貸金請求訴訟などです。これはもう圧倒的に貸している側が勝ちます。(だからこそ、借金の時には貸主は借用書を作るのです)
では法律的な争点が存在する単純ではない事件にもかかわらず、割と結果が予測できる事件とは何かと言うと最高裁判所で争点について判決が出たものと同じ種類の事件ということになります。最高裁判所の判断には全国の裁判所が影響を受けますので、割と正確な回答ができます。
実は過払金請求事件も最高裁判所で判決が出るまでは必ず勝てるとは言えない裁判でした。「みなし弁済」が成立するか、しないかは大きな争点だったのです。従って、その頃は過払金請求などを行なう法律家は少数派だったのです。(私の事務所では、その頃から過払金請求を扱っていましたが、当時は扱っている事務所は本当に少なかったです)
ところが最高裁判所で貸金業法43条の「みなし弁済」を一切認めないという判決が出るや否や、過払金訴訟は出せば必ず勝てる裁判になり、その後、雨後のたけのこのように過払金を取り扱う事務所が増加していったのは、ご存知のとおりです。
ここで言いたいのは、最高裁判所の判断が出ていない法律的な争点がある事件に関しては、いかなる腕利きの弁護士や司法書士といえども、裁判の結果を保証することは出来ないということです。(もし保証している法律家がいたとしたら、それは非常に怪しいと考えて良いでしょう) この部分は一般の人には非常に理解しにくいようなので繰り返し伝えたいと思います。
また一つ一つの裁判所が独立事業体のようになっているのも他の役所と大きく異なっている部分です。要は、裁判所によって、いろいろな事務の取り扱いが異なっているのが珍しくないのです。事務の取り扱いなど統一した方が効率的ではないかと私などは思うのですが、実際には驚くほど独自のルールで運用されているのが実状です。それこそ、同じ過払金請求訴訟でありながら使用する切手の金額が裁判所によって違っていたりするのです。
従って、裁判所の特徴やクセのようなものが存在するので、そういうことに詳しい法律家に依頼することも選択する場合の重要な決め手になるでしょう。