司法書士ジャーナル
橋本司法書士事務所ブログ

2013年6月

6月 28 2013

日常家事債務

日常家事債務とは法律用語です。一般の人は聞きなれない言葉かもしれませんが、日常生活で割と起こりうる場面で重要になってくることなので、知っておいた方が良いと思います。

例えば、こんな例があります。
父親と子供が一緒に英会話教室に申し込みに来ていて、申込書には父親の名前が書かれている。ところが、しばらく経つと未払いが発生して、督促をすると父親はどこかに行方不明になってしまい電話に出るのは母親だけ。そこで母親に請求すると、「私は申し込んだ覚えは無い。だから支払う必要は無いでしょう」と言われ、全く回収できない。

このケースでは、本当に母親には支払義務は無いのかが問題になります。

契約自体は父親と教室の間で結ばれているのは明らかです。よって、契約の当事者は教室と父親です。通常は、契約の当事者以外の人には支払義務は発生しません。例えば、夫が消費者金融からお金を借りた場合、保証人になっていない限り妻には返済義務はありません。

しかし、法律には、この例外として「日常家事債務」というものを規定しています。

日常家事債務とは、日常的に発生する債務に関しては、例え夫婦の一方が契約したものであっても、夫婦連帯して債務を負担するという規定です。
ようするに、夫が契約した日常家事債務に当たる支払いは、妻にも支払義務が生じるということになります。(もちろん、逆もまた、しかりです)

では、何が日常家事債務に当たるのでしょうか。

例えば、光熱費、日用品などの生活必需品、医療費、教育費などは典型的なものと言われています。他にも、夫婦の収入レベルに応じて、この範囲は拡大したり縮小したりします。(最終的には裁判所の判断になります)

すると、英会話教室の授業料などは教育費として判断される可能性が高そうです。よって、このケースの場合、母親には支払義務があると考えて、法的な請求をしていく余地は充分にあると思います。

6月 24 2013

名古屋本庁の個人再生事件の取り扱いの変化

以前は、名古屋本庁の個人再生事件は、かなりの確率で再生委員が選任されていました。そのことによって、再生委員の報酬として8万円ほどの予納金を余分に裁判所に納めなければならなかったのです。この場合、合計で10万円を超える費用を裁判所に支払うことになり、再生を試みる債務者にとっては大変に高いハードルになっていました。

一方、三河地方を管轄する岡崎支部や豊橋支部の裁判所では再生委員が選任されないので、上記の8万円ほどの上乗せ分が不要となり、同じ再生事件でも非常に安く申し立てることが出来ていたのです。

これでは住んでいる地域によって、明らかに有利・不利が出来てしまうので、この取り扱いは問題ではないかと個人的には思っていました。

ところが名古屋市及びその周辺部で再生申立を考えている債務者にとっては非常にありがたいことに、最近、名古屋本庁の再生係の取り扱いが変わってきています。具体的には、再生委員が選任されない事件が増えてきているのです。

こうなった正確な理由は分かりませんが、良い傾向になっているのは喜ばしいことです。ただし、裁判所という役所は、ある日突然、取り扱いを変更することが過去にもありましたので、これがずっと続くかどうかは分かりません。もし申立を考えている人がいたら、今はチャンスかもしれません。

不思議なことに、破産係の方は、逆に以前よりも厳しくなっています。破産管財人が選任される確率が以前よりも上がっているのです。破産管財人は再生委員よりも報酬が高いので、債務者にとっては予納金が高額になるケースが増えた訳ですから、良くありません。

再生係を甘くして、破産係を厳しくするとは、一体、名古屋本庁は何を考えているのでしょう。破産管財人には通常、弁護士が選任されますので、最近、何かと取沙汰されている弁護士の失業問題にからんでいるのではないかと言う人もいます。

まあ、そのような一部の業界の都合で取り扱いが変わったとは私も思いたくはありませんが、そのような噂があることは事実です。私としては、そうでないことを祈るばかりです。

より詳しい情報を知りたい方は以下をクリック

http://www.hashiho.com/debt/kojinsaisei/

6月 21 2013

授業料の未払い

実は私は司法書士になる前、学習塾の経営をしていたことがあります。従って、授業料の未払いが、いかに経営に影響を与えるか、分かっているつもりです。

これを防ぐために受講券というシステムを取り入れていました。生徒に前払いでチケットを購入してもらい、授業を受けるたびに授業の単位数に応じてチケットを回収するという仕組です。生徒がみんなの前でチケットを渡しますので、チケットが無い状態で授業を受けると、生徒自身が相当にクラスの中で気まずくなります。親も気にしますので結果的に未払いは非常に少なかったと思います。ただ最近は個別指導の学習塾が全盛になっているようなので、このやり方も、あまり効果は無いかもしれません。

月謝システムを取っている塾が大半だとは思いますが、たいていは申込書に「3ヶ月以上の授業料の滞納があった場合は退塾または休塾してもらいます」という文言が入っていることが多いでしょう。そこで、実際に3ヶ月の滞納が発生してしまった時の対応が塾によって、まちまちだったりします。

情に厚い塾長さんだと、子供には罪は無いと考え、とりあえず催促はするけど、それでも払ってくれない場合ずるずると放置されて、生徒は通ってくるけど滞納授業料は増えるばかり、という悲惨な結果になりかねません。

最悪なのは、こんな状況が何かの拍子に他の生徒の親に知られてしまった場合です。これは完全に不平等な取り扱いになってしまいますから、気性の激しい親御さんなら塾に抗議してくることは充分に考えられます。その抗議を、たまたま見ていた他の親にも更に悪評が広かっていって、下手をすると大量の退塾が発生するかもしれません。

このように、たかが滞納授業料と考えていると大変なことに発展する可能性もあるのです。授業料の未払いを甘く見てはいけません。やるべきことは、ある程度の覚悟をもって、きっちりとやっていくのが良いと思います。塾は、国や自治体から補助金をもらって運営している訳ではないのですから。

やはり、3ヶ月以上の滞納があった場合は、受講を拒否するのが筋だと思います。もし、受講を継続させるならば、法的措置も含めて徹底的な授業料の回収に努めるべきでしょう。そうでなければ、他の生徒に対して示しがつかなくなってしまいますから。

塾長は教育者であると同時に経営者でもあるわけです。塾の経営が成り立たなければ結局、教育の目的も達成できなくなりますから、どこかで一線を引く必要があるでしょう。そんな時、授業に集中したいので、授業料の回収は他にまかせたいと思われた場合は、当事務所がお役に立てるかもしれません。

6月 19 2013

民事裁判と刑事裁判

一般の人は、あまり裁判になじみが無いのが普通ですから、民事裁判と刑事裁判の違いと言っても、ピンとこないかもしれません。しかし、この両者は全く異なります。

良くテレビや映画に出てくる裁判のシーンは圧倒的に刑事裁判が多いので(法廷ドラマが人気のあるアメリカでは、民事裁判のドラマも結構あります)、皆さんが頭に思い描く裁判のイメージは刑事裁判のものでしょう。何と言っても、刑事ドラマや検察のドラマが多いので、その影響を知らずに受けているわけです。

しかし、世の中の裁判のほとんどが実は民事裁判なのです。民事裁判の方が圧倒的に件数が多いです。それなのに民事裁判については驚くほど知られていません。民事裁判を扱ったドラマや映画も少ないですから、イメージすらもっていない人も珍しくありません。

それでは民事と刑事で何が違うのかを見ていきましょう。

まず民事裁判には、テレビに良く出てくる検察官は登場しません。少しでも裁判知識のある人にとっては「そんなの当たり前だろ」と言われそうですが、そのくらい民事裁判は一般人に馴染みがないのです。

刑事裁判で争っているのは国家(検察官)と個人(被告人)です。検察官は国家を代理し、弁護士は個人を代理しています。一方、民事裁判で争っているのは個人と個人です。個人が会社の場合もありますが、民間であることが重要です。ようは民事裁判とは民間同士の争いなのです。そして民事裁判では法律家を付けるかどうかは個人に任されています。双方に法律家が付く場合もあれば、片方にしか付いていない場合もあります。もちろん、裁判所に行ってみれば、双方ともに本人が出頭していることもあります。(民事裁判では訴えた方を原告、訴えられた方を被告と言います)

そして、良く間違われるのが「証拠」の扱いです。同じ証拠でも民事裁判と刑事裁判では取り扱いが全く違います。

刑事裁判では容疑者を国家が裁くという形をとりますので、慎重に進める必要があるという観点から、きちんとした証拠が無い限り、例えどんなに怪しくても有罪にしてはいけないことになっています。そして、その証拠の集め方も法律できちっと決まっていて、違法な手段で集めた証拠では有罪には出来ません。(例え、どんなに決定的な証拠であってもです)

一方、民事裁判では、証拠は警察や検察ではなく個人が勝手に集めたもので争われます。双方が用意してきた証拠を元に裁判所が判断する訳ですが、その際、証拠の集め方は問題になりません。もし違法に集めたものだったら、別の裁判で損害賠償を請求される恐れはありますが、少なくとも該当する裁判での証拠の価値は下がりません。

もう一つ、決定的な違いは、民事裁判においては、原告と被告の間に争いが無い事実(双方ともに認めている事実)については、証拠は必要ないということです。簡単に言えば、「両方が認めているんだから、それでいいじゃないか。」というのが民事裁判です。ひょっとしたら、本当は事実ではないことを両方が何かの都合で認めているのかもしれません。それでも構わないというスタンスを取るのが民事裁判の考え方です。従って、民事裁判では、双方の意見が食い違って争いになっていることだけを、証拠調べの対象にします。

また、民事裁判の場合、双方が認めるというのも、積極的に同意する必要はありません。例えば、原告が主張したことを、被告が黙って反論しなかったとしても、それは認めたこととみなされます。民事裁判では、日本的な「あうんの呼吸」は全く通用しません。反論しないことは、すなわち同意したのと同じことと考えられているからです。実際に、被告が一切反論せずに黙り続けたら、原告の完全勝利の判決が出ます。原告側が、どんなにいいかげんな証拠しかなくても、そうなってしまいます。ですから、民事裁判では、どんな屁理屈でも、とりあえず反論することが大事になります。

ところが、刑事裁判では、検察官の言うことに被告人が特に反論しなかったとしても、これだけでは有罪にすることは出来ません。被告人が反論しないで黙っていたとしたら、検察側は証拠により犯罪を立証しなければなりません。証拠不十分で立証に失敗したら、被告人無罪の判決が出ることになります。このように刑事裁判は、民事裁判に比べて厳格な立証が求められるのです。一人の人間を犯罪者にするかどうかを決めるのですから、まあ当然と言えば当然ですが。

以上、説明したように、民事裁判と刑事裁判は、その性質が非常に異なっています。特に相談をしていて私が感じるのは、ドラマなどの影響で民事裁判についての誤解が多いように思います。今回の説明で、少しはその誤解が解けたらと思っています。