司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2016年8月

8月 31 2016

受託者と受益者が同じになることはありますか(家族信託(民事信託)⑩)

まずは、基本のおさらいからです。

    委託者:財産を誰かに託す人
    受託者:財産を預かって、運用や管理をする人
    受益者:財産から発生した利益を受け取る人

でしたね。

委託者と受益者が同じになることは、家族信託では珍しくありません。
委託者と受託者が同じになることも、あります。
しかし、受益者と受託者が同じになることは基本的には家族信託では予定していません。

なぜでしょうか。

自分の利益の為に自分自身で財産を管理できるのであれば、家族信託を利用する必要がないからです。
それだと不都合が起こる様々な事情があるからこそ、家族信託が選択される訳です。

もし一時的に受託者と受益者が同じになった場合にはどうなるのでしょう。
その状態が1年間続いた場合には信託が終了することになっています。
すぐに信託が終了するわけではありませんが、信託の制度は自分以外の誰かのために財産を管理するというのが趣旨なので、このようなきまりになっています。

名義と権利が分離するのが信託の特徴でしたね。
>>>おすすめ記事 信託した財産はどうなるのか<<<

ただし、受託者が受益者になる場合でも、受託者以外の人が受託者と共に受益者となっている場合、例えば、受託者がAさんで、受益者はAさんとBさんの二人いるような場合には、家族信託は継続できることになっています。

8月 30 2016

受託者が亡くなったとき (家族信託(民事信託)⑨)

家族信託は、いろいろなケースがあります。
委託者が親で、受託者がその子、受益者が親というケースは割と一般的です。
年齢的にみれば、親→子の順に亡くなることが予想されますが、必ずしもそうなるとは限りませんよね。
子が先に亡くなることもあり得ます。
受託者である子が先に亡くなった場合、家族信託の契約はどうなるのでしょうか。

信託は終了する?

原則として、受託者が亡くなっても信託は終了しません。
また、受託者が亡くなったとき、受託者の地位は相続人に承継されません。
相続のように、自動的に相続人が相続するというわけではないのです。
となると、信託は終了していないのに、受託者になる人がいないという、宙ぶらりんな状態になってしまいます。
これを避けるために、新しい受託者が選任されるまでの間、一時的に受託者の相続人が信託財産を管理することになります。
委託者が親で、受託者がその子だった場合は、一時的に孫が管理するということになりますね。

二次受託者を決めておく

最初から、上記のような状態を避ける手段もあります。
信託を設定する際に、信託設定時の受託者が死亡したときに受託者となるべき者(二次受託者)を定めておくことです。
その定めがない場合には、どうなるのでしょうか。
原則として委託者と受益者の合意によって新受託者を選任します。
委託者と受益者が同一人物なら、その人物が新受託者を選任することになります。

尚、受託者がいない状態が1年間続いたときには信託は終了することになっています。
受託者が亡くなって、二次受託者の定めがない場合には、1年以内に新しい受託者を選ぶ必要があります。

あらかじめ、最初の信託契約において、二次受託者を決めておいたほうが良いようですね。

<<<これも知りたい! 委託者が亡くなったら 信託も終了する?>>>

8月 29 2016

受託者になる場合に注意すること(家族信託(民事信託)⑧)

受託者は、信託の目的に従い、信託財産について名義人として管理・運用・処分することが出来るという大きな権限が与えられることになっています。
その反面、様々な義務や責任があります。
受託者を引き受ける人(法人でも受託者になれます)は、事前にこれらの義務や責任を知っておく必要があるでしょう。

受託者の義務

    善管注意義務

受託者の主な義務としては、信託財産については、自分の財産を管理する程度の注意では足りません。
より高度な(善良な管理者としての)注意義務を負うという善管注意義務/があります。
自分のものでない財産を預かっているわけですから、より注意が必要というわけです。

    報告義務 帳簿等の作成義務

また、委託者及び受益者に対して信託の事務処理の状況を報告する報告義務、信託財産について帳簿等を作成して保管しなければいけない帳簿等の作成義務などがあります。

受託者として名義人になったからといって、何でも好き勝手に行えるわけではありません。

受託者の責任

    損失の補てんと現状の回復

更に受託者の責任としては、受託者としての任務を怠った場合に責任が生じます。
任務を怠ったことにより、信託財産に損失が生じた場合にはその損失の補填を、変更が生じた場合には、原状の回復を受託者の責任によって行う必要があります。
受託者は、とても責任が重いのです。

受託者の候補者になった場合には、このような義務や責任について認識したうえで引き受けるかどうかを検討したほうがよいでしょう。

信託監督人とは?

これだけ大きな義務と責任があるのならば、信用のおける司法書士や弁護士に受託者を頼みたいという意見も当然あるでしょう。
しかし、信託の規定により司法書士や弁護士は受託者になることが出来ません。

どうしても受託者に対して不安が残る場合は、司法書士や弁護士を「信託監督人」に指定することが出来ます。

信託監督人は受託者を監督して定期的に報告を受け取ったり、場合によっては調査したりすることが可能です。
信託監督人を置くことによって、受託者の不安をいくらか解消することが期待できるでしょう。

8月 25 2016

委託者が亡くなったら、信託も終了する?(家族信託(民事信託)⑦)

委託者が亡くなると、信託は終了するのでしょうか?

信託の内容が、「委託者の死亡によって信託が終了する」という内容でなければ、委託者が死亡しても信託は終了しません。

では信託が終了しない場合、委託者の地位(立場)は相続人に引き継がれるのでしょうか。

原則として、遺言による信託においては、委託者の地位は引き継がれません。
一方、信託契約による信託においては、委託者の地位は相続により引き継がれます。
いずれの場合も、委託者の死亡について特に取り決めが無い場合です。

委託者の地位にはさまざまな権利があり、これを委託者の相続人が承継するかしないかでその後の信託に大きな影響を及ぼす可能性があります。

したがって、信託の内容の中で原則とは異なる規定を置くことはできます。
(この辺が信託制度の柔軟なところです)。
この場合、必要に応じて委託者の相続人がその地位を承継するかどうかの規定を書き込むことになります。

8月 24 2016

信託した財産はどうなるのか? (家族信託(民事信託)⑥)

信託の最も大きな特徴は、財産の名義と権利が分かれることです。
この特徴によって、他の制度では出来なかったことが可能になるのです。

信託された信託財産の「名義」は受託者※になります。
信託財産にかかる「権利」(経済的利益)は受益者※のものとなります。

※ 受託者は財産を預かって管理する人のこと。委託者とは財産を預ける人のこと。
※ 受益者とは財産から生まれる利益を受け取る人のこと。

受託者は信託法の規定及び信託の目的の範囲内で、信託財産を名義人として管理・運用・処分することができます。
たとえば、受託者は信託された不動産の賃貸借契約、管理契約、売買契約などについて、名義人として行うことができます。

ただし、信託財産から発生する経済的利益である賃料や売買代金については受益者のものとなるのです。

たとえば、

    委託者→認知症の親
    受託者→財産を管理する子
    受益者→認知症の親

のパターンですと、どうなるのでしょうか。

家族信託契約により、認知症の親の代わりに、子が財産を管理し、その収益を親の生活費や施設入居費等に使う、ということができます。

認知症になったあとですと、家庭裁判所の成年後見制度を利用するしかなくなるため、このようなことは、実現不可能になります。
なんとかなるだろうと、甘く考えていると、あまりにも制限がかかるので、驚かれると思います。
何度も成年後見人を経験したので、わたしはよくわかっています。
後で後悔しないためにも、早めに家族で話し合っておくことを、おすすめします。

8月 23 2016

信託の3つの設定方法とは?(家族信託(民事信託)⑤)

そもそも、信託とはどういう意味でしょうか。
誤解を恐れずに簡単に言います。
「自分の財産を信頼できる人に渡して、その財産を管理したり、処分したり、ときには運用したりすること」です。
信頼できる人が管理運営して得た利益は、自分が受け取ることができるよう設定することが多いですが、自分以外の人に決めることもできます。

信託は、以下の3つの方法によって設定することができます。

信託契約

委託者受託者※が信託契約を締結する方法です。
注意していただきたいのは、受益者※は契約の当事者にはならないということです。
契約書の作成は公正証書によることは要求されていませんが、財産管理という非常に重要な内容の契約です。
公正証書で作成するのが一般的になっています。

※ 委託者とは財産を預ける人のこと。受託者は財産を預かって管理する人のこと。
※ 受益者とは財産から生まれる利益を受け取る人

遺言

信託の目的・信託財産・受託者・受益者など信託の内容を遺言書の中に記載する方法です。
遺言なので、当然、亡くなった後でしか、効力が発生しません。
信託契約と同様、信託の内容を記載した遺言書についても、やはり公正証書で作成することが望ましいでしょう。
気を付けて頂きたいのは、信託銀行の扱う遺言信託という商品です。
これは通常の遺言を信託銀行が代行するという意味で、ここで言う遺言による家族信託とは全く違いますので注意しましょう。

>>>家族信託と信託銀行の扱う遺言信託の違いについて、もっと知りたい方はこちら<<<

信託宣言

委託者と受託者が同一者となる場合(自己信託)には、契約当事者が一人となるため契約をすることができません。
そこで委託者の意思表示によって信託の設定をする方法です。
意思表示は、公正証書での作成のほか、公証人の認証を受けた書面や、確定日付のある証書による受益者への通知といった方法が規定されています。
信託宣言についても公正証書によって作成することが望ましいでしょう。

いずれにせよ、何を実現したいかによって、1番望ましい信託方法は違ってきます。
わからないときには、ぜひ専門家ご相談ください。

8月 22 2016

家族信託と遺言の違い (家族信託(民事信託)④)

    遺言

遺言は法的には単独行為と呼ばれ、遺言者本人が単独で行うことが可能です。
また、本人が途中で気に入らなくなったら、単独で書き換えることが可能です。
単独行為のプラス面としては、遺言を書いたこと、あるいは書き換えたことを本人以外には秘密にしておくことも出来ます。
マイナス面としては、単独行為なので、遺言、または書き換えた遺言が発見されないというリスクがあります。

    家族信託

家族信託は本人(委託者)と受託者の契約によって行われます。
契約なので本人が単独で変更することは出来ません。
当事者が複数なので契約が発見されずに履行されないというリスクは低いと言えます。

他には、遺言は遺言者が死亡するまで効力を発生させることが出来ません。
一方、家族信託の場合、生前から財産の管理を受託者に任せることが出来ます。

遺言も家族信託も、それぞれに特徴がありますので、個々の実情に合った方法を見つけて頂くことが大切だと思います。

8月 18 2016

知っておきたい 家族信託と成年後見の仕組みの違い(家族信託(民事信託)③)

成年後見の仕組み

まずは、成年後見制度をおさらいしておきましょう。
成年後見制度には、法定後見制度任意後見制度があります。

法定後見制度は、認知症などにより判断能力がなくなった場合に、裁判所が選任した後見人によって財産の管理をしてもらうことになります。

任意後見制度は、判断能力がなくなったときのために、事前の契約によって後見人になってもらう人を決めておくものです。
判断能力がなくなったら、後見監督人の監督のもと、事前に決めておいた後見人に財産の管理をしてもらうことになります。

法定後見、任意後見のいずれの場合も、「本人の財産を減らさない」ことを大前提とし、裁判所や後見監督人の監視のもとで財産管理をすることになります。

後見開始後は相続対策のために財産を贈与したり、財産を使ってアパートを建てたりすることは一切できなくなります。

家族信託の仕組み

一方、家族信託の場合はどうでしょうか。
後見制度のような制約が一切ありません。

本人(委託者)の判断能力が喪失した後も、信託の目的の範囲内においては、財産を託された受託者の判断によって相続対策などを行うことが可能です。

持っている土地にアパートを建てようと思っている。
孫が留学するときに、ある程度の金額を贈与しようと思っている。

これらのことは、そのとき「思っている」だけでは、認知症になったときに、実現することができなくなってしまいます。

家族信託の場合は、本人の意識がしっかりしているときに、信託契約をしますので、しっかりしていたときの本人の意思を、財産の管理に活かすことができるのです。

もちろん、例にあげたこと以外にも、細かくオーダーメイドで契約内容を決めることができます。
一度、ご家族で話し合って見てはいかがでしょうか。

>>>家族信託について、詳しく知りたい方は<<<

8月 17 2016

家族信託で節税?ちょっと待って!(家族信託(民事信託)②)

「家族信託をすれば、節税になる」
そんなふうに聞いたから実際どうなのかと、質問を受けることがあります。
これには注意が必要です。
家族信託という制度が注目されるようになってから、まだそんなに経っていません。
誤解を生むこともあるでしょう。
特に税金に関しては、個別の状況に応じて違ってきますので、事前によく考えなくてはなりません。

贈与税と相続税はどうなる?

家族信託をすると、財産の名義が委託者から受託者へ変わります。
その際、贈与税や相続税はどうなるのでしょうか。

贈与税
まず贈与税については、税務上は実質的な財産の移転が誰に移るのかで判断されます。
信託における委託者から受託者への名義の変更については形式的なものです。
財産から得られる利益については、あくまで受益者が獲得します。

従って、実質的な移転は受益者とみなされますので、受託者ではなく受益者に対して贈与税が課税されることになります。
この性質を利用して、家族信託では委託者と受益者を同一人物に設定することにより贈与税の発生を無くすことが可能となります。

この方法を自益信託と呼びます。

この方法を使えば、たとえ名義が受託者に移転しても贈与税の対象とはなりません。

相続税
一方、相続税については、受益者が移転した場合、通常と同様に相続税がかかります。

あくまで基準は受益者なので、受益者が変更したかどうかがポイントです。
受益者移転による相続税は、基礎控除や軽減措置なども通常の相続と全く同じになります。

家族信託でなければ、できないことは?

家族信託では、遺言では不可能だったことができるようになります。
たとえば、最初に指定した相続人が亡くなった後の、次の相続人まで指定できるという大きなメリットがあります。
一定の条件を満たせば、次の相続人が亡くなった後、さらにその次の相続人まで指定することも可能です。
自身が亡くなったあと、かなり先まで、財産の行方(使い道)を指定できるということですね。

相続で家族信託を検討する時は、上記のような信託でないと実現できないようなメリットに注目して考えて頂くのが良いでしょう。

>>>家族信託について、詳しく知りたい方は<<<

8月 16 2016

家族信託と信託銀行の「遺言信託」は別物です(家族信託(民事信託)①)

信託には大きく分けて民事信託商事信託があります。
家族信託は民事信託に含まれます。

商事信託と家族信託

まず商事信託とは、何なのでしょうか。
1番わかりやすい例をあげましょう。
金融商品の「投資信託」です。
信託銀行や信託会社などが不特定多数の人の財産を預かって投資運用をし、その手数料を得るという信託の形態です。

では家族信託とは、どういうものなのでしょう。
不特定多数の人の財産を預かるわけではありません。
特定の親族から託された財産についての管理や承継を行う信託の形態です。
様々なバリエーションがあり、依頼主の状況に応じてオーダーメードで作成が可能です。

どこが違う?信託銀行と家族信託の「遺言信託」

注意して頂きたいのは「遺言信託」という言葉についてです。
信託銀行が扱っている「遺言信託」という商品の中身は何なのでしょう。

    遺言の作成サポート
    遺言の管理
    相続が発生したときの遺言執行を行う

というものです。
正直なところ、なぜ商品名に「信託」という言葉が付いているのか疑問に思うような内容になっています。
信託銀行における「遺言信託」とは、単なる遺言の総合サポートのことを意味しているのであって、法律的な意味での信託とは関係が無いのです。

一方、家族信託での「遺言信託」とは、どういうものなのでしょうか。
遺言の中に信託契約を書き込んでおいて、相続発生と同時に信託契約が発効するように遺言に残しておくものです。
文字通り、遺言による信託契約なので、本来は遺言信託とはこの意味で使うべきでしょう。

このように同じ遺言信託という言葉を使っていても、信託銀行と家族信託では意味が全く違いますので注意が必要です。
信託銀行から「遺言信託」をすすめられたら、このことを思い出しましょう。

>>>家族信託について、詳しく知りたい方は<<<