司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

2017年3月

3月 27 2017

預貯金は遺産分割の対象になるのか?(預貯金の相続②)

平成28年12月に、相続に関して注目すべき最高裁決定が出ました。
最高裁には5人の裁判官で構成される小法廷が3つあります。
通常は小法廷で審議されます。

しかし、今までの裁判例を変更するような重要な判決や決定を出す場合は、3つの小法廷の裁判官が全員集まって大法廷が開かれることになっています。
合計15人の裁判官で構成されることになりますね。
今回出た決定は大法廷ですので、注目に値する決定が出たということです。

預貯金の相続 今までの考え方

預貯金の相続に関しては、今までの裁判所の考え方は、
「相続人全員が合意により遺産分割の対象に含めない限り、相続が開始した瞬間(被相続人の死亡の瞬間)に法定相続分に従って分割される」というものでした。
ちょっとわかりにくいですね。
預貯金は不動産と違って、もともと分けることができる財産ですから、そのような財産は、被相続人が亡くなった瞬間に、自動的に法定相続分が法定相続人に分けられているという考えかたです。
実際は、預貯金はまだ銀行にあるのですから、少し混乱してしまいますが、このような考え方になっているということです。

しかし、この考え方には現場で実務を取り扱っている金融機関からは批判が多くあり、学者の間でも「現場に混乱をもたらしている」と批判的な意見が出ていました。
なぜでしょうか。
たとえば、この考え方に従うと、相続人の一人が銀行にやってきて、法定相続分の引き出しを請求した場合、銀行は応じなければなりません。
応じた後で、別の相続人が、「実は遺言が見つかって、私が預貯金のすべてを相続することになったから」と言ってきた場合、大変なトラブルになってしまうからです。

また、相続人の一人が生前贈与を受けていた場合、本来ならば、生前贈与の分も考慮して遺産分割協議を行うのが公平です。
しかし相続財産が預貯金しか無かった場合、当然に法定相続分に従って分割されてしまうと、生前贈与を受けなかった相続人が損をしてしまうという不都合が起こっていました。

預貯金債権は遺産分割の対象に

これらの現場の声や学者の声に動かされた影響もあるのでしょう。
ついに最高裁が今までの考え方を改め、「例え相続人全員の合意が無くても、預貯金債権は遺産分割の対象になる」という決定を出したのです。

この決定が実務に与える影響は大きいと思われます。
今後は、上記のような混乱や不都合は減少していくでしょう。しかし、その反面、新たな問題の発生も予想されます。例えば、以下のような問題です。

  • この決定を受けて、今後、銀行では遺産分割協議が終了するまでは故人の銀行口座を凍結し、引き出しには応じなくなる。
  • 相続税の申告などが必要な場合、10ヶ月という期限がありますので、早急に現金が必要になる。もし、遺産分割協議が長引いてしまった場合、間に合わなくなり、相続税の支払いの為に一時的に借金をするというケースも考えられる。
  • 上記のようなトラブルを防ぐ為に、今後は早めに現金が引き出せるように、遺産分割協議が不要な遺言の作成、生命保険の契約などが重要となってくるでしょう。

    平成30年の時点で、更に変更されましたが、詳細はまだわかっていません。
    わかり次第、またブログにアップ予定です。

    より詳しい情報が知りたい方は以下をクリック

    https://www.hashiho.com/inherit/megihenko/

    3月 24 2017

    結婚20年以上で、配偶者の相続に新たな優遇案(遺産分割①)

    結婚20年以上のご夫婦に朗報です!
    相続制度に関する法律の変更が新たに検討されています。
    これには、戦後70年以上が経過して、今までの法律が時代に合わなくなってきているという背景があります。
    今回は、配偶者の相続に関する新たな優遇案をご紹介しましょう。

    結婚20年以上で住宅贈与の場合

    法務大臣の諮問機関である「法制審議会」の相続部会において新たに提案がなされました。「結婚から20年以上が過ぎた夫婦の場合、配偶者が生前や遺言により居住用の住宅を贈与されたときは、遺産分割で優遇される」というものです。
    相続部会では賛成者が多数だったようで、いずれ法制化される可能性が高いと考えられます。

    新しい案では、結婚から20年以上の夫婦で、配偶者が居住用の不動産(建物・土地)の贈与を受ける場合が対象になります。
    贈与した人が亡くなり、相続人同士で遺産分割が行われた場合、贈与された居住用の不動産については遺産分割の財産に含めないという形になります。

    高齢の配偶者に対する配慮

    今までの法律ですと、居住用の不動産以外にめぼしい財産が無い場合、困ったことが起きていました。
    配偶者以外の相続人が遺産分割協議の席で換価分割を主張したとします。
    財産のほとんどが不動産だった場合には、こういうケースも少なくありません。
    そうすると、財産を相続人で分けるためには、居住用不動産を売却しなくてはならなくなります。
    そのため、高齢の配偶者が長年住み慣れた家から追い出されるという不都合が生じるケースが少なからずあったのです。

    今回の優遇案では、このような事態を防ぐ目的があると思われます。
    ただし、自動的に配偶者が優遇される訳ではありません。
    生前贈与や遺言などの方法により、法的にはっきりとした形で贈与がされていることが条件になっているので注意が必要です。
    (この法案が通った場合、配偶者への生前贈与や遺言が増加することが予想されます。)

    まだ成立した訳では無いので、若干の修正がかかる可能性がありますが、現行の遺産分割制度に見直しがかかる可能性は高いでしょう。

    より詳しい情報が知りたい方は以下をクリック

    https://www.hashiho.com/inherit/divide/

    3月 02 2017

    本当は大変な銀行の相続手続(預貯金の相続①) 

    銀行の相続手続は簡単だと思っていますか?
    銀行は、誰でも何度も行ったことがありますし、窓口での振り込みやその他の取引をしたこともありますよね。
    その延長線で、相続もたいした手続きではないだろうと思ってしまうのです。
    相続は人生に何度も起こることではありません。
    経験した人も少ないため、大変さがなかなか伝わらないのです。
    実際に経験した人は、皆さんが、「二度とやりたくない」、「こんなに大変だと最初から分かっていれば専門家に頼んだのに」などの感想を持たれます。
    では何がそんなに大変なのでしょうか。

    1. 銀行の担当者が相続に詳しいとは限らない
    2. 相続が大変になる最も大きな理由がこれだと私は思います。
      実は相続手続をきちんと理解している担当者は銀行の中でもとても少ないのです。
      普段の手続きに比べたら、件数が少ないので、そういうことが起きるのかもしれませんね。たまたま詳しい人が留守だったりすると、説明があいまいだったりすることも珍しくありません。

      ただでさえ、戸籍や住民票、遺産分割協議書等、慣れない書類を準備しなくてはならない相続手続きです。
      必要書類の説明が抜けていて、聞いたとおりの書類を持参しても
      「すいません。追加の書類が必要です」などと言われ、何度も足を運ぶ羽目になることが珍しくありません。

    3. 時間がかかる
    4. これも1と関連がありますが、支店レベルの担当者が相続に詳しくないため、疑問点が出るたびに、本部に問い合わせるのです。
      そして本部から折り返しの回答が来てから顧客に対しての説明になるので、非常に手間も時間もかかります。
      メガバンクや郵貯銀行などの大手に、このような対応が目立ちます。

      メガバンクや郵貯銀行は支店とは別に相続センターのようなものを設けて、支店で受け付けた書類をそのままセンターに送って集中的に事務処理をするというパターンが多いので、支店レベルではますます詳しい人が少なくなる傾向があります。
      支店に何人かは、詳しい人を置いてほしいところですね。

    5. 銀行ごとに書式や必要な書類が違う

    6. 複数の銀行の相続手続をする場合は、より大変になります。
      銀行ごとに独自の書式を設けているので、手続書類の書き方が異なっているからです。
      異なっているのは書き方だけではなく、必要書類も異なっている場合がありますから注意が必要です。
      正直なところ、金融機関どうしで話し合って統一書式を作れないのかと思うことが何度もあります。

      私のこれまでの経験では、最も必要書類が多いのは三菱東京UFJ銀行です。三菱東京UFJ銀行の相続は要注意ですね。
      同じグループ企業なのに三菱UFJ信託銀行は、それほど多くありません。(同じグループでも対応が異なるのが相続手続です。)

    7. 相続人全員の実印を何枚も押さなくてはならない
    8. 相続人が複数いて法定相続する場合、ほとんどの銀行で、手続依頼書には相続人全員の署名と実印の押印が必要です。
      相続人全員の印鑑証明書も必要です。
      このため、銀行が複数ある場合は、すべての銀行の用紙に全員の署名押印をもらうだけでも大変な手間になります。
      このような場合、専門家に依頼すると、委任状に1度署名押印することで、全ての銀行の手続が可能となりますので、かなりの手間を省くことが出来ます。

    9. 中心になって動く相続人が疑われることがある
    10. 通常、相続人の中でも中心になって手続を進める人が決められることが多いです。
      その場合、他の相続人よりも手間がかかっているにも関わらず、他の相続人から「きちんと分配したのか」というような苦情を言われるケースがあります。
      このようなトラブルやクレームを避ける目的で、専門家に依頼される方もいます。

    以上のように、銀行の相続手続は多くの人がイメージされるよりもずっと大変です。
    仕事が忙しくて平日にあまり休みを取れない方、高齢で体力が衰えて頻繁に出歩くのが大変な方、面倒な手続きはできれば任せたい方などは、専門家に依頼することを検討されると良いでしょう。

    より詳しい情報が知りたい方は以下をクリック

    https://www.hashiho.com/inherit/megihenko/