9月
08
2025
Q 相続における司法書士と弁護士の違いって何?
A 簡単に言うと、弁護士は特定の相続人の代理人であり、司法書士は相続人全員の代理人となります。
Q 弁護士の特定の相続人の代理とは?
A 弁護士が相続手続をする場合、必ず特定の相続人の代理となります。相続人全員の代理となることは、利益相反になるためできません。
従って、相続人同士で話し合いがまとまっている場合は弁護士の出番は基本的にありません。相続人の間で遺産分割について争っている状態だと、弁護士が特定の相続人の味方になって介入することができます。当然、他の相続人にとっては敵になりますね。(弁護士が遺言執行者になっている場合は、争いがなくても遺言書のとおりに手続を進めます)
Q 司法書士の相続人全員の代理とは?
A 司法書士は相続人の間で遺産分割について争いがある場合は基本的に介入できません。そのような状態で相談されたら「まずは遺産の分け方に決着を付けてから依頼してください」と答えます。
一方、相続人同士で話がまとまっている場合は弁護士と異なり、相続人全員から依頼を受けて相続手続を進めることができます。
Q 相続手続を司法書士に頼むか弁護士に頼むか迷った場合は、どうすればいいですか?
A 相続人の間で争いが無く手続だけを依頼したい場合は、司法書士に依頼すべきでしょう。一方、遺産分割で争いがある場合は弁護士の出番になります。
ただし弁護士は特定の相続人からしか依頼を受けられませんので、争いたい相続人が複数いる時は、それぞれが別の弁護士に依頼することになります。弁護士同士の争いになる訳です。そこまでするのが嫌だと思われる場合は相続人同士で決着を付けてから司法書士に依頼すると平和的な解決にはなりますね。
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8月
29
2025
遺産分割調停と審判
遺産分割協議が話し合いでまとまらない時、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。遺産分割調停で法定相続人の合意がとれたら調停調書が発行されます。一方、遺産分割調停でも決着が付かなかったら、裁判官による遺産分割審判で決定されます。
判決や審判の場合、登記申請するには確定証明書が必要
裁判の結果が判決や審判の場合は、登記申請をする時に判決書や審判書だけでなく、確定証明書も必要です。なぜかと言うと、判決や審判の場合は裁判官が決定しているので、決定に不満がある当事者が異議を出せる期間を設けているからです。
もし異議が出されていた場合、判決書や審判書があっても決着はまだ付いていないことになります。確定証明書は「異議が出てない」ことを証明する書類なのです。
調停で決着がついた場合、確定証明書は必要か?
一方、遺産分割調停で決着が付いた後で相続登記を法務局に申し立てる場合、遺産分割協議書の代わりに調停調書が必要書類になります。しかし確定証明書は必要ありません。
この理由は、調停の場合は当事者の話し合いで決着が付いているので、調停で終わっているならば当事者全員の合意が取れていることが前提だからです。従って異議を出せる期間は設けられておらず、確定証明書も不要ということです。
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8月
26
2025
海外在住の相続人がいる時の相続手続
最近は海外在住の相続人がいることは珍しくなくなりました。
日本に住民票や印鑑登録があり、頻繁に日本に帰国するようなケースならば日本の住民票や印鑑証明書を使うこともできますが、ほとんど帰国しないで主に海外に住んでいる場合は特殊な相続手続が必要になります。
まずは在留証明書を取得する
まずは、住んでいるところの最寄りの日本の大使館または領事館に行って、在留証明書という書類を取得して頂きます。海外に住んでいることを日本政府が証明した書類になります。海外の住民票のようなものですね。
在留証明書の写しを司法書士に送る
在留証明書を取得したら、その写しを相続手続を依頼した司法書士に送ります。この時、原本は絶対に送ってはいけません。なぜなら次に行う手続に必要だからです。司法書士は在留証明書の写しを見ながら委任状や遺産分割協議書を作成します。
サイン証明を取得する
司法書士が作成した書類が海外の住所に届いたら、その書類と在留証明書の原本を持って大使館または領事館に行きます。そこで大使館員や領事館員が見ている前で司法書士の作成書類にサインをします。サインの確認後、大使館または領事館がサイン証明を発行して司法書士作成書類にホチキスで留めます。これでサイン証明の完成です。
サイン証明は時間がかかるので早めに取り掛かろう
海外在住の相続人がいる場合、大使館や領事館が近くになければ行くだけで時間がかかります。近くにあっても在留証明書とサイン証明の2回行く必要があります。
サイン証明を取得した後は、在留証明書と一緒に原本を郵送して頂く必要がありますので、海外からだと郵送に時間がかかります。このように何かと時間がかかりますので、海外の相続人には早めに動いて頂いた方が良いでしょう。
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8月
19
2025
家庭裁判所に持ち込んでも希望通りになるとは限らない
相続人同士で遺産分割が決まらない場合、すぐに家庭裁判所に持ち込もうと考える相続人がいます。
しかし、ちょっと待ってください。家庭裁判所に持ち込んだからと言って希望通りになるとは限らないのです。むしろ希望通りにならないケースが非常に多いという事実を知っておきましょう。
家庭裁判所は法定相続を好む
家庭裁判所の遺産分割調停を経験していくと分かってくるのですが、家庭裁判所は非常に法定相続を好みます。よほどのことが無い限り法定相続で決着させようとしてきます。
ですから法定相続になったら話し合いの時よりも得をする相続人には、遺産分割調停はメリットがあります。
法定相続よりも多くを希望する相続人は話し合いでの決着を目指そう
逆に法定相続よりも多くの相続分を希望している相続人は、家庭裁判所に持ち込まれると不利になるということは覚えておくべきです。
いくら自分で説得力のある理由があると思っていても、家庭裁判所の対応は恐ろしく冷たいものになる可能性が高いです。ですから法定相続よりも多くを希望するなら、できるだけ話し合いで解決するべきなのです。
不動産があるならば代償分割を考える
相続で揉めるのが多いのは不動産がある場合です。遠方の相続人は不動産をもらっても仕方が無く、住み続ける相続人がいると売ることもできないので揉めやすいと言えます。なまじ不動産に価値があると、住み続ける相続人が財産価値としては多くもらうことになってしまいます。
このような場合は、代償分割を提案しましょう。これは不動産をもらう相続人が代わりに金銭を払うことで、他の相続人とのバランスを取る方法で広く使われています。
バランスを取る方法も嫌ならば遺言を残してもらうしかない
先ほどのバランスを取る方法でも納得できず、どうしても法定相続よりも余分にもらいたい事情があるのならば、生前に遺言を残してもらうか、信託契約を結んでもらうしかないでしょう。(もちろん他の相続人が承知しているならば、どんな方法でも分割は可能です)
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8月
01
2025
不動産を信託財産にした場合
不動産を信託財産にした場合、法務局に信託登記の申請をしなければなりません。不動産が信託財産となっていることを第三者に知らせる必要があるからです。通常は信託契約書作成を担当した司法書士が申請します。
信託の登記には2種類ある
信託の不動産登記をする場合、所有権移転登記と信託登記を同時に申請します。所有権移転登記は委託者から受託者へ名義を変えるために行う名義変更登記になります。
ただし、これだけだと第三者が見た時に信託で移されたのかどうかが分かりにくいので、所有権移転登記と同時に信託登記も申請して、誰が見ても不動産が信託財産であることが分かるようにするのです。
信託による所有権移転登記は登録免許税が非課税
委託者兼受益者の信託は、名義が受託者に変わっても権利は委託者のままです。よって信託財産の名義を移しても贈与税がかかりません。不動産の登録免許税の場合も同様で、信託による『所有権移転登記』は登録免許税が非課税となっています。
一方、贈与による所有権移転登記は登録免許税が2%なので、3000万円の不動産だと登録免許税は60万円にもなってしまいます。それと比べると信託による所有権移転登記の非課税措置は非常にありがたいですね。
信託登記の登録免許税は、かかるが安い
所有権移転登記と同時に申請する『信託登記』の登録免許税は非課税ではありません。信託登記は名義の変更を表すものではなく、不動産が信託財産であることを表すものだからです。
ただし、税率は安く設定されていて固定資産評価額の1000分の4となっています。これは相続登記と同じ税率で、贈与と比べると5分の1です。
また、土地の信託登記については租税特別措置法により更に安く設定されていて1000分の3となっています。
信託登記の登録免許税は合計した後で100円未満を切り捨てる
登録免許税には100円未満を切り捨てるというルールがあります。複数の不動産がある場合は合計してから切り捨てるというルールもあります。
信託登記は土地と建物で税率が異なるので、土地と建物の税額をそれぞれ個別に計算して、端数があってもそのままで、合計してから切り捨てることになります。個別の税額が出たところで切り捨てて、その後に合計してしまうと金額が違ってしまう事があるので注意しましょう。
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7月
29
2025
売主が登記名義変更に協力しない場合
不動産業者が仲介して決済日を設けて行う不動産売買ではほとんど起こりませんが、個人間の売買ではたまに、買主が代金を支払った後でも売主が登記名義変更に協力しないため名義変更ができないというケースがあります。このような場合は買主はどうしたら良いのでしょうか。
裁判を起こして名義変更を許可する判決をもらう
このような理不尽な状況を回避するために、買主が裁判を起こして売主に対して登記名義変更を強制する判決をもらうことができます。
裁判に勝利すると次のような判決が出ます。
「被告(売主)は原告(買主)に対し、別紙目録記載の不動産について、令和〇年〇月〇日売買を原因とする所有権移転登記手続きをせよ」
判決が出れば売主を無視して登記手続ができる
判決文の内容を読むと、強制はしているけれども売主も手続に関与する必要があるように見えます。しかし実際には売主の関与は不要です。この判決さえもらうことができれば、売主を全く無視して買主だけで登記名義変更の手続をすることが可能です。
売買の登記手続に必要なもの
売買の登記名義変更の手続のことを正確には「売買を原因とする所有権移転登記」と言います。この手続には通常は売主側の書類として「実印で署名押印された委任状」「売主の3ヶ月以内の印鑑証明書」「売却される不動産の登記識別情報通知(登記権利証)」が必要になります。
しかし先ほど紹介した判決があれば売主側の書類は全て不要になります。判決と確定証明書があれば、それが売主側の書類の代わりになるのです。
※確定証明書とは判決が確定したことを裁判所が証明する書類です。確定した判決の主文には既判力があり、既判力とは同じ内容で再び争うことができないという強制力のことを言います。
原因日付が判決に書かれていない場合
司法書士が登記を強制する裁判に関与していれば大丈夫だと思いますが、たまに弁護士のみで登記の裁判をされている場合があります。弁護士は裁判の専門家ですが登記の専門家ではありません。
よって、出された判決に従ってどのように登記がされるのかまでは理解していないことがほとんどです。そのため判決文に原因日付が書かれていないことがたまにあります。しかし登記をするためには原因日付が必要です。その時はどうすれば良いのでしょうか
判決文に原因日付の記載が無い時の対処法
そのような場合は極めて例外的ではありますが、「年月日不詳売買」とか「年月日判決(日付は判決確定日)」のような記載で法務局は認めていることが多いです。ただし判決文に日付が入っていた方がスムーズに進むことは間違いないので、裁判の段階で日付は入れてもらうようにしましょう。
相続における調停や審判による登記
相続登記では登記義務者は故人なので、義務者の協力が不要なため「判決による登記」が必要になるケースはあまりないです。一方で、複数の相続人が遺産分割協議で争って決着が着かないために、家庭裁判所で遺産分割調停や審判になる時があります。
調停や審判は判決ではありませんが、裁判所の決定という意味では同様の効力があります。従って調停書や審判書があれば、反対している相続人の協力が無くても相続登記を行うことができます。
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7月
16
2025
評価額明細は市区町村によって違う
固定資産税は市区町村が徴収する税金です。ですからその根拠となる固定資産評価額も市区町村が決定します。従って、毎年郵送されてくる固定資産税評価額明細も市区町村によって異なるのです。
名古屋市の場合は「価格」と記載される
名古屋市の評価額明細の場合、その年度の固定資産評価額は「価格」と記載された欄に書かれている金額になります。他にもたくさん欄がありますので、始めて見る方は、どこに評価額が書かれているのか分からないと質問される場合は多いです。
例えば名古屋市の場合は共有持分がある場合でも合計の評価額が書かれていますから、自分の持分の価格が知りたい場合は、評価額に持分割合をかけることになります。
京都市の場合は「当該年度価格」と記載される
京都市の評価額明細を見ると「価格」という表記が見当たらなかったので、「あれ」と思って役所に問い合わせると、「当該年度価格」と言う項目が名古屋市で言う「価格」に当たるのだということが分かりました。このように市区町村によって評価明細の書き方が異なるという実体験になりました。
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相続登記
4月
07
2025
マンションの買戻特約の注意点
マンションの登記事項証明書(登記簿)を見ると、たまに買戻特約が「建物のみに関する」付記登記として記載されている場合があります。「建物のみに関する」付記登記とは一体何なのでしょうか。これを理解するには、まずマンションの登記の特殊性から説明する必要があります。
敷地権付区分建物
現在のマンションの登記のことを敷地権付区分建物の登記と言います。通常、日本の不動産登記は土地と建物は別々になっていて、一戸建てを売却する場合、土地と建物の両方の登記の名義を変更しなければなりません(更地にして売る場合は別です)。
ところがマンションの登記の場合は土地と建物が一体になっていて、建物の登記の名義を変えれば土地の名義も一緒に変わるようになっています。この仕組みを専門用語で敷地権付区分建物の登記と言います。
以前は無かった敷地権付区分建物の制度
とても便利な敷地権付区分建物の制度ですが昭和59年から始まったもので、比較的新しいものです。ですからマンションでも敷地権付区分建物になっていない登記もまだまだ多くあります。
敷地権付区分建物になる前は、マンションであっても土地と建物の登記が別々で、売却する場合は土地と建物それぞれの名義を変更する必要がありました。そしてこのような古いマンションに買戻特約を付ける時も土地と建物それぞれに買戻特約の登記が付けられていたのです。
買戻特約が付いた古いマンションの登記に問題が発生
昭和59年から敷地権付区分建物の登記が始まって以降、それ以前の古いマンションの登記で、土地と建物が一体化されたものもあります。そうなると困ったことが起こりました。一体化以降は、建物に買戻特約が付いていると自動的に土地にも効果が及びます。
ところが古いマンションの場合、元々土地にも買戻特約が付いているため、土地の買戻特約が二重に付いていることになってしまうのです。よって、この問題を解決するために一つの手段が取られるようになりました。
買戻特約の二重登記問題を解決するための手段
古いマンションの買戻特約の登記が、一体化以降は土地について二重になってしまう問題を解決するために、「建物のみの買戻特約の登記」が考え出されました。
これは、買戻特約が付いている古いマンションが敷地権付区分建物で一体化された時に、建物の登記には「建物のみに関する」付記登記が書かれることになったのです。この付記登記が書かれることによって、一体化した後でも建物の買戻特約については土地には効果が及ばないことになりました。土地には一体化前から元々買戻特約が付いているので二重になることは無くなったのです。
古いマンションの買戻特約の抹消
従って古いマンションの買戻特約を抹消する場合は注意しなければなりません。なぜなら一体化する前の土地の部分に買戻特約が付いてことを忘れがちだからです。
一体化以降は建物の登記に敷地権として土地も書かれているので、マンションの場合は建物の登記だけを見る習慣が根付いています。
しかし、「建物のみに関する」付記登記が付いている時は、土地の登記に単独で付いている買戻特約も抹消しないと、そのまま残ってしまい売却の時に問題になってしまいます。
従って、古いマンションの「建物のみに関する」買戻特約の登記を見つけたら、必ず土地の買戻特約の登記も抹消する必要があることを覚えておきましょう。
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相続登記
3月
31
2025
買戻特約とは
買戻特約は一般的には不動産の売買と一緒に付けられます。買戻権者は住宅供給公社や日本住宅公団(現在のUR)などの公的な機関であることが多いです。公的な機関の場合、購入の際に条件が付けられていることが多く、例えば「一定期間の転売の禁止、居住用以外の用途での使用禁止」などです。
これらに違反した場合は物件を買い戻すことができるように買戻特約が付けられているのです。期間は5年になっていることが一般的です。
買戻特約の抹消
買戻特約は登記事項証明書(登記簿)に登記されています。買取希望者が特約の存在に気付くようにしているのです。特約の登記が付いたまま買い取る人はいませんので、売却したい時は必ず買戻特約の登記は抹消しなくてはなりません。
買戻特約の抹消のタイミング①
買戻特約は一般の人はほとんど知りません。自分の不動産にそんな登記が付いていること自体を知らないケースが大半です。ですから買戻特約の抹消だけを依頼してくることはまずありません。
ではどういうタイミングで抹消の依頼が入るのかというと、まずは売却しようと思って不動産屋や司法書士などに相談に行った際に「買戻特約を抹消しないと売れません」と言われた時です。
買戻特約の抹消のタイミング②
もう一つ買戻特約を抹消するタイミングとしてよくあるのが、司法書士が相続登記の依頼を受けた時です。相続登記の相談を司法書士が受けると、買戻特約が付いていれば発見して「このままでは将来売る時に困るから、相続登記と一緒に買戻特約を抹消しておきましょう」と提案するのが普通です。
買戻特約の抹消は以前は大変だった
買戻特約の抹消登記は令和5年3月までは共同申請でなければできませんでした。不動産所有者と買戻特約を付けた公的機関の共同申請になる訳です。ところが買戻特約を付けた公的機関は組織変更などで変わってしまっているため、この手続はかなり手間がかかりました。
買戻特約の抹消が楽になった
令和5年4月から法律が改正されて、10年経過した買戻特約は単独で抹消できるようになりました。買戻特約は最近では付けられなくなったので、ほとんどがかなり古いです。ですから、この改正によって単独申請ができるようになった買戻特約は相当多いはずです。買戻特約の抹消は以前よりは楽にできるようになりました。
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相続登記
3月
11
2025
信託財産責任負担債務とは
信託法には「信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう」と書かれています。分かり易く言うと「信託財産によって返済する義務がある債務」のことです。
通常は信託財産からは回収できない
受託者の債権者、例えば受託者にお金を貸している業者がいたとします。この業者は受託者が借りたお金を返済しなかったら、受託者の財産から回収する権利があります。
しかし受託者の債権者であっても、通常は受託者の預かる信託財産から回収することはできません。理由は、信託財産は法的には委託者の財産であり受託者本人の財産ではないからです。
どんな場合に信託財産から回収できるのか
しかし例外的に信託財産から回収できる場合があるのです。それが信託財産責任負担債務であり、色々ありますが最も分かり易いのが、「信託財産の有効活用のために金融機関から借り入れた債務」などです。信託財産の有効活用のためにと言う部分がポイントですね。信託財産のための借金ならば信託財産での返済義務があるという考え方になります。
信託財産に対する差押(強制執行)
信託財産責任負担債務は信託財産からの回収を認められていますので、受託者が払わなかった場合は信託財産に対して差押(強制執行)をすることも可能です。一方、通常の債務の場合は信託財産に差押をすることはできません。
受託者自身の財産も責任財産になるのが原則
信託財産責任負担債務については、信託財産だけではなく受託者の固有財産からも返済する義務があるのが原則です。信託法では「信託前に生じた委託者に対する債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」が信託財産責任負担債務であると規定されています。
例えば該当するものとして「委託者がローンを組んでアパートを建設し、ローンが残った状態で信託する。ローンについて委託者から受託者へと債務引受をした上で、信託契約において『信託財産責任負担債務とする』旨を定める」というケースが上げられます。融資した金融機関は返済が滞った時に信託財産はもちろんのこと、受託者の固有財産からも回収が可能です。
信託財産限定責任負担債務とは
しかし例外的に信託法21条2項に定められている債務については信託財産のみで返済義務を負います。これを「信託財産限定責任負担債務」と呼びます。代表的なものとして受益債権が上げられます。受益債権とは「受益者が受託者に対して、信託財産の引き渡しや給付を求める権利のこと」を言います。
例えば「不動産から得た賃料収入は受益者に渡す」と定めていれば、受益者は受託者に受益債権を有しています。
受益債権は信託財産限定責任負担債務ですから、信託財産だけが責任財産です。受託者の固有財産からは支払いを求めることはできませんし、強制執行をすることもできません。
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