司法書士ジャーナル<相続>
橋本司法書士事務所ブログ

3月 31 2022

相続登記の遺産分割協議書は登記簿のとおりに 相続登記(28)

評価証明書と登記事項証明書

不動産の情報を確認したい時に、まず思い浮かぶのは固定資産評価証明書と登記事項証明書の二つです。

評価証明書は市町村税事務所、登記事項証明書は法務局が発行する証明書になります。
評価証明書については、毎年春に届く固定資産税納付書に添付されている明細書でも代わりになります。
※登記事項証明書は登記簿と呼ばれることもあります。

不動産情報が異なる場合がある

評価証明書と登記事項証明書に記載されている不動産の情報は、一般的には同じと考えられていますが、実は異なる場合があります。

比較的多いのは、土地の地目、建物の構造や床面積などです。

なぜ異なる場合があるのか

登記事項証明書は、不動産情報に変更があったとしても、法務局が職権で修正することはありません。法律上、申請がない限り修正できない取り扱いになっています。

ですから、土地の地目・建物の構造や床面積などに変更があっても、古い情報がそのまま放置されているケースが多いのです。

一方、評価証明書は固定資産税の根拠となる書類ですから、古い情報のままで税金を課すのは問題が生じます。
従って、定期的に市町村税事務所が調査を行い、変更があれば逐一修正しているのです。

つまり、評価証明書の方が最新の情報になっている場合が多いということになります。

他には、マンションなどの集合住宅の床面積の測り方が評価証明書と登記事項証明書では違うということがあります。一般的には、登記事項証明書の床面積の方が狭くなる傾向があります。(通常は壁の真ん中から測るのに対して、登記では壁の内側から測るため)

遺産分割協議書には、どちらを書くべきか

では評価証明書と登記事項証明書で不動産の情報が異なっていた場合、遺産分割協議書には、どちらを書くべきなのでしょうか。
これは結構重要な問題です。

まず相続登記(名義変更)をする場合には、絶対に登記事項証明書のとおりに書かなくてはなりません。
例えば実際に建物が建っていて宅地として使っている土地で、評価証明書に宅地と記載されていても、登記事項証明書に雑種地と記載されていれば分割協議書には雑種地と記載しなくてはいけません。
※このようなことが起こる理由としては、更地の時は雑種地で、その後、建物を建てた時に土地の地目の変更登記を申請していなかったケースが考えられます。

一方、相続税の申告をする場合は、どちらでも構わないようです。税金の申告なので評価証明書のとおりと言うわけではないのですね。

他には遺言書に書く場合の不動産の情報は登記事項証明書のとおりに書くことが求められています。

結論

遺産分割協議書や遺言など、登記事項証明書のとおりに書かないといけない場合がある一方で、評価証明書のとおりでないといけない場合というのは少ないように思います。(私の知る範囲では、ありません)

ですから、重要な書類に不動産の情報を書く場合は、登記事項証明書のとおりに書いておけば間違いはないと考えて良いと思います。

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2月 18 2022

遺言による「相続」と「遺贈」の違い 遺言(25)

遺贈とは

相続は聞いたことがあっても、遺贈は聞いたことが無いという人は珍しくないでしょう。まずは遺贈について簡単に説明しましょう。

遺言で渡す相手が法定相続人であった場合、「相続させる」と言う表記になります。しかし、この表記は法定相続人でなければ使うことができません。法定相続人でない人に相続させることはできないからです。

では法定相続人以外の相手に遺言で渡す時はどうするのかと言うと、この時に「遺贈する」という表記を使うのです。

※会社経営者などは、別の事情からあえて「遺贈する」を使うこともあります。

遺贈は税金面で不利になる

遺贈は相続に比べて、相続税や不動産の登録免許税などが高くなることが多いです。ですから、法定相続人に渡す場合は表記を「相続させる」と書くように気を付けましょう。

たまに相続の相談で自筆証書遺言を持ち込まれて、家裁で開いてみたら「〇〇に譲る」と書いてあって、トラブルになる場合があります。

「譲る」というのは一般的に遺贈と解釈されることが多いので、〇〇が法定相続人の場合に税金面で不利になる可能性があるからです。(法定相続人に遺贈するのも法的には有効です)

このようなことを防ぐためにも、遺言を書く時は専門家に相談するのが良いでしょう。

複雑な事例

以下のような相談がありました。
遺言希望者は80代の女性で、ご主人は既に亡くなられています。こちらの女性はとても80代には見えないほど、お元気な様子でした。

お話を聞くと、ちょっと複雑な相談で、子どもがいなくて兄弟姉妹がAさん、Bさん、Cさんの3人いるのですが、うちBさん、Cさん2人が既に亡くなられているようでした。Bさん、Cさんには、それぞれ2人と4人の甥姪がいて、法定相続人は合計で7人と言うことになります。(ご存命のAさんにも甥姪が4人います。)

複雑なのはここからで遺言で渡したいのは、存命しているAさんの甥姪4人と、亡くなられたBさんの甥姪2人ということでした。Cさんの4人の甥姪には疎遠なので渡したくないとの希望です。
一般の方が自力で書くと間違えやすい事例だと思います。

相続と遺贈が混じることになる

ここで注意すべきなのは渡したい相手に法定相続人と、法定相続人ではない人が混ざっているというところです。

亡くなられたご兄弟の甥姪2人は法定相続人ですから「相続」と言う表記になりますが、ご存命の兄弟の甥姪4人は現時点では法定相続人ではないので「遺贈」という表記になります。

更に予備的遺言を書いておくべき

気を付けたいのは、今回のような場合、もしご存命の兄弟が遺言者よりも先に亡くなった場合(年齢が近いので充分可能性があります)、その瞬間に甥姪が法定相続人になるということです。

遺言を書き直して「遺贈」を「相続」に修正するという方法もありますが、その時に遺言者が認知症になっていたら、書き直すことはできません。

このようなことを防ぐために予備的遺言を書いておく方法があります。
予備的遺言とは、「もし〇〇が先に亡くなったら、~する」という文言を遺言に入れておく方法です。

今回のケースだと「もし〇〇(存命の兄弟)が遺言者よりも先に亡くなったら、甥姪に相続させる」となるでしょうか。
このような方法を一般の方が気付くのは、なかなか難しいでしょう。遺言を正確に書くのは意外に大変なのです。

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遺言

9月 27 2021

認知症患者の口座からの親族による引き出し 成年後見⑨

認知症の最大の問題は口座の凍結

家族が認知症になった時、最も大きな問題は、認知症になった家族の名義の口座が凍結されてしまうことです。

凍結されると預貯金が全く引き出せなくなってしまいます。昨年(令和2年)までは認知症患者の親族であっても引き出せず大きな問題となっていました。どうしても引き出したい場合は、家庭裁判所で成年後見人を選任するしかないという状況でした。

しかし今年(令和3年)に入って、この仕組みが変わることになりました。この記事では何が今までと違うのかについて詳しく説明していきたいと思います。

成年後見人の問題点

実は成年後見制度には様々な問題点があり、利用をためらう親族が多いのが現状なのです。例えば以下のような問題点があります。

  1. 選任手続に費用と手間がかかる
  2. 家庭裁判所で成年後見人を選任してもらうのに費用と手間がかかります。手間を省くために専門家に選任手続を依頼した場合、追加費用がかかります。

  3. 親族が成年後見人になれないケースが多い
  4. 従来の取り扱いでは、候補者に親族の氏名を書いても専門家が選任されるケースが多かったです。ただし、この取り扱いが利用を妨げているという反省があり、今後は親族を積極的に成年後見人に選任するという方向に変えると最高裁判所から発表がありました。

  5. 選任後に専門家の報酬がかかる
  6. 誰を成年後見人に選任するかは裁判所が決めるので、親族が選任されない可能性は常にあります。その場合、専門家が選任されますが、そうなると毎月の専門家の報酬が発生します。
    専門家の報酬は認知症患者の財産から支払われますので、財産が毎月減っていくことになります。成年後見人の任期は認知症患者が亡くなるまで続きますので、合計すると相当な金額が財産から支払われる可能性があります。

  7. 一度決まった成年後見人は変更できない
  8. 成年後見人には変更の仕組みが基本的にありません。一度、家庭裁判所で決まったら、どれだけ親族が気に入らなくても変えてもらうことはできないのです。そして、認知症患者が亡くなるまで選任は続きます。最近は親族が選ばれる確率が高くはなりましたが、それでも100%ではありません。全然知らない専門家が選ばれるリスクは常にあるのです。

全国銀行協会の新たな指針

このように家族が認知症になってしまったが、様々な問題があるために成年後見制度は利用したくないという人が増えた結果、口座が凍結されたままになっているケースが増えてしまいました。銀行としても凍結されたままの口座が増加するのは好ましくありません。そこで全国銀行協会が今年(令和3年)2月に新たな指針を発表しました。これが画期的な内容だったので話題になったのです。

その内容とは「親族でも認知症患者の預貯金の引き出しを可能にする」というものです。ただし可能にするには、いくつかの条件があります。

また、条件ではありませんが、銀行としては前提として「親族に対して成年後見制度の利用を、まずはお願いする」というスタンスであることは知っておいてください。引き出しを希望する親族は、成年後見制度を使いたくない事情等を説明してから引き出しを依頼することになるでしょう。

親族が預金を引き出せる条件とは

  1. 医師の診断書の提出
  2. まずは口座名義人が認知症であることの公的な証明書として、医師の診断書が必要とされています。

  3. 使いみちが限定される
  4. どんな目的でも引き出せる訳ではありません。使いみちは「口座名義人の医療費・介護費・生活費など」に限定されます。名義人本人にとって必要な目的以外は認められないということです。

  5. 投資商品などの解約は難しい
  6. 投資信託などの金融商品の引き出し・解約については、より慎重な対応が必要とされています。銀行の預貯金口座に比べると、これらの口座の親族による引き出しは簡単ではないと考えた方が良いでしょう。

家族信託契約の利用

銀行から上記のような条件の審査を受けることなく、迅速に繰り返し預貯金の引き出しを行いたい場合は、前もって家族信託契約を結んでおく方法が考えられます。

家族信託契約とは、高齢者が認知症になる前に自分の財産の管理を任せたい人と信託契約を結んでおくことで、認知症になってしまった時に備えておく契約です(認知症になった後では信託契約を結ぶことはできません)。
公正証書で信託契約を結んでおけば、口座名義人が認知症になった後でも、任された人はスムーズに預貯金を引き出すことが可能になります。また、不動産の管理を任せたい場合にも信託契約は有効です。
特に不動産の処分(売ってお金に換える)を考えている場合は、信託契約を結んでおく必要性が高いでしょう。もし処分する前に認知症になってしまった場合、例え家庭裁判所で成年後見人を選任しても処分するのは難しいからです。

結論

親が認知症になってしまった場合、残された親族は介護費用や入院費用や施設入居費用などを調達しなければなりません。しかし、親の口座から現金を引き出すには前述したように様々な条件を満たした上で銀行の審査を受ける必要があります。しかも、引き出すたびに繰り返しです。他にも親の不動産を処分して介護費用や施設入居費用に充てようとしても、名義人が認知症である場合は売却が非常に困難であることに皆さん驚くことになります。

このようなことにならないためにも、親が認知症になる前に家族信託契約などを積極的に活用して対策を取っておくことが大切です。

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9月 09 2021

権利証を失くした時の本人確認証明 生前贈与⑨

権利証を失くしたら(相続の場合)

相続登記で権利証を失くしても通常の手続が可能です。なぜなら相続登記の場合、権利証は必要書類に含まれていないからです。理由は、相続は本人が既に亡くなっているため、本人確認の1つである権利証は必ずしも必要ではないからです。

ただし、亡くなってから長期間放置されていた相続登記の場合、本人の住民票の除票が保存期間が過ぎていて取得できない場合があり、その時は代わりに権利証が必要になることがあります。

権利証を失くしたら(生前贈与や売買の場合)

生前贈与や売買の登記では、登記義務者(不動産を渡す人のこと)の権利証は絶対に必要な書類です。理由は、権利証を持っていることが登記義務者本人であると推定される根拠の一つになっているからです。なぜなら権利証は再発行がされない書類なので、本人しか持っていないだろうと予想されるためです。

ですから我々司法書士は登記完了後に権利証を渡す時、「大切に保管してください。できれば金庫などに入れておくと良いと思います」と伝えます。
よって、もし権利証を失くした状態で生前贈与や売買の登記をしようとすると、通常の手続では行うことができません。

生前贈与や売買における本人確認証明

そこで登場するのが本人確認証明という書類です。本人確認証明とは司法書士が「登記義務者は本人に間違いない。更に不動産を渡す意思があるのも間違いない」ということを書類に細かく記載して、職印を押して保証する書面です。いわば司法書士が権利証が無い登記義務者に対して保証人になるようなものだ、と思って頂ければ分かり易いかと思います。本人確認証明は司法書士に重大な責任を負わせているのです。

本人確認証明は厳格な確認が必要です

権利証を失くしているということは登記義務者本人であるという推定が働かないケースと言えます。実際に他人が登記義務者になりすまして「権利証を失くした」と言って売買をして、代金を受け取ったら雲隠れしてしまったという事件が起こっています。
そのため法務局も権利証が無いケースには神経質になっていて、権利証がある場合に比べて相当に厳格な確認を義務付けています。

厳格な確認とは

例えば、

  1. テレビ電話によるリモート面談の禁止
  2. 2021年9月現在、本人確認証明では今流行のリモート面談は認められていません。必ず直接会わなくてはいけません。

  3. 身分証明は本人から提示
  4. 身分証明は面談の際に本人から提示を受けて、その場で本人と顔写真を比べて違和感が無いかを確認することになっています。

  5. 電気・ガス・電話などの明細の確認
  6. 最近数カ月の電気・ガス・電話などの請求明細の名義が本人になっているかを確認することになっています。ただし明細は家族の名義になっている場合もあるので、その時は別の方法を考えます。

本人確認証明以外の方法(事前通知制度)

権利証を失くした時の生前贈与や売買の登記で、本人確認証明以外の方法も存在します。それは以前のブログで説明したことのある事前通知制度です。
2回目なので詳しい内容の説明は省きますが、事前通知制度を使えば本人確認証明は不要になります。どうしても本人確認証明を使いたくない事情がある時は検討することになるでしょう。

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生前贈与
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事前通知制度

9月 06 2021

遠方の親族が亡くなった時の相続登記 相続登記(27)

必要書類の郵送申請

遠方の親族が不動産を持っていて亡くなった場合、相続登記はかなり大変です。まず必要書類を郵送申請で取得しなければなりません。郵送申請は窓口よりも手続にかなりの手間がかかります。また申請が間違っていた場合、窓口ならばその場で直せますが、郵送だと出し直しになり時間も費用も余分にかかります。

法務局への相続登記申請

必要書類がそろったら法務局への相続登記申請になります。
法務局への申請が間違っていた場合、それを直すことを専門用語で「補正」と呼んでいます。法務局は通常の役所とは違い、補正がかなり厳しいです。

法務局の補正は基本的に窓口に行ってすぐに直せる程度の間違いしか認めてくれません。時間がかかる修正の場合、「一旦、取り下げてから出し直してください」と言われることも珍しくありません。

相続登記の申請の取り下げ

申請を取り下げると提出した申請書類は全て返却されます。特に面倒なのが登録免許税の取り扱いです。

登録免許税は申請の際に収入印紙に代えて納めています。その収入印紙は取り下げても使用済みの記載がされているので利用できません。それでは再び支払うことになってしまうので、救済措置として収入印紙の再使用証明の手続が認められています。つまり再使用証明の手続を行う必要があるのです。このように余分な手続きが多く非常に手間がかかります。

遠方への申請の場合、間違えると大変

遠方の法務局へ申請した場合、例え簡単な間違いだったとしても窓口へ出かけることができませんので、取下げてからの出し直しになる可能性があります。これは一般の方が自分で行う場合は非常に大きなリスク要因になります。

なぜ、法務局がこのような対応になっているかというと、不動産登記申請の9割近くが司法書士による申請になっていることが一つの理由でしょう。つまり法務局の職員にとって正確な申請がなされることが当たり前になっているので、間違った申請に対する姿勢が厳しくなりがちなのだと思います。

できる限り司法書士に依頼するべき

病気になったら医者に行きますよね、裁判になったら弁護士に相談するでしょう。なぜか登記申請になると自分でやろうとする方が一部いらっしゃいます。しかし、登記申請は実はかなり専門的な手続です。司法書士と言う国家資格がそのために設けられているくらいですから。

私は近くの親族が亡くなった場合でも、思わぬ落とし穴にはまらないように司法書士に依頼すべきだと思いますが、特に遠方の親族が亡くなった場合は、よりリスクが大きくなるので絶対に司法書士に依頼した方が良いと思います。

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相続登記

7月 12 2021

相続登記の後の抵当権抹消 相続登記(26)

抵当権付不動産の相続

相続した不動産に抵当権が付いていることがあります。ローンを返済中であれば、そのまま相続することになりますが、ローンを完済している場合は抵当権を抹消することになります。

本来はローンを完済した時に登記名義人が抹消しておくべきなのですが、後回しにしたまま放置されているケースも少なくありません。

抵当権抹消を放置されたまま名義人が死亡した時は、相続人が抵当権抹消登記をしなくてはいけません。

抵当権がかなり古い場合

相続してから確認すると、抵当権がかなり古いものである場合があります。そのような場合、抵当権者である金融機関が吸収合併などで変わっていることがあります。

特に平成に入ってからは金融再編で銀行の吸収合併が多いので、そのままである方が少ないかもしれません。

抵当権者が変わっている時の抹消登記

抵当権抹消登記の登記義務者は抵当権者です。売買や贈与の場合、登記義務者に住所や氏名などの変更があった場合は、事前に変更登記を申請しなければなりません。

しかし、抵当権抹消の時の登記義務者の変更については事前の変更登記の申請は不要です。変更を証明する書類を添付して、いきなり抹消登記を申請することができます。

変更証明書とは何か

抵当権抹消登記の登記義務者の変更証明書とは、商号変更や本店移転または合併を証明する登記事項証明書などになります。

これらの書類は通常、金融機関から送られてきます。抵当権者がハウスメーカーなどの場合も同様だと思います。

変更証明書は抵当権者から申請後の返却を要請されることが多いので、抹消登記の際に法務局に原本還付の申請を忘れないようにしましょう。

抵当権移転登記が必要な場合

注意すべき点として、ローンを完済する前に抵当権者の吸収合併が起こった場合、抹消登記の前に抵当権移転登記を申請する必要があります。抹消の原因(ローン完済など)が生じる前に抵当権者が変わったことになるからです。

古い抵当権の抹消は権利証が無いことが多い

長期間放置された抵当権の抹消の場合、権利証が紛失していることも多いです。その場合は、事前通知制度などを利用して申請することになり、手間も時間も余分にかかります。

ローンを完済したら、すぐに抵当権は抹消しよう

長い時間が経つと、もともとは簡単だった抵当権抹消登記も複雑になり手間も時間もかかるようになります。このようなことを避けるためにもローンを完済したら、すぐに抵当権抹消登記をするように心がけましょう。(ローンを完済すると、抹消登記の必要書類が抵当権者から郵送されてくるのが一般的な取り扱いです)

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7月 12 2021

権利証が無い時の事前通知制度 生前贈与⑧

権利証が必要な場合

不動産の贈与や売買などの名義変更登記を行う時、登記名義人(贈与の渡す方、売買の売主)は必ず権利証を法務局に提出しなくてはなりません。権利証は登記済証の場合もあれば、登記識別情報の場合もあります。

これは権利証を持っていることが、自身が不動産の所有者であることの証明になっているからです。
一方、相続の場合は登記名義人は死亡しているので、権利証の提出は不要となっています。

権利証を失くしてしまったら

しかし、様々な事情で権利証が見つからない場合もあるでしょう。権利証は再発行されない書類なので、失くしてしまったらどうすればよいのでしょうか。

このような時に解決する方法が2種類あります。一つは本人確認情報の作成、もう一つは事前通知制度です。

事前通知制度とは

本人確認情報については以前にブログで簡単に説明しましたので、今回は事前通知制度について説明します。

事前通知制度とは、登記申請の際に権利証を紛失した旨を法務局に説明して、事前通知によって登記を処理するように申請することで利用できる制度です。

事前通知の利用が正しく申請された場合、法務局は登記名義人に対して、「登記申請があったこと」および「登記申請の内容が正しいと考えるのであれば、一定期間内にその旨の申出をすること」を郵便で通知します。

事前通知制度の郵便の種類

登記名義人が個人の場合は、本人限定受取郵便で通知されるのが一般的です。一方、登記名義人が法人の場合は、書留郵便で送られるようです。

事前通知制度の流れ

法務局から登記名義人宛に事前通知書が届いたら、原則として2週間以内に名義人本人が署名押印して返送しなくてはなりません。

押印は申請書または委任状に押した印鑑と同一ものとされていますので、実印で押すことになります。

抵当権抹消の場合の印鑑証明書

古い抵当権抹消の登記を申請する場合、権利証を紛失していて提出できないことがたまにあります。

抵当権抹消の登記名義人は抵当権者(ほとんどが金融機関)ですが、一般的には印鑑証明書は添付書類になっていません。(所有権の売買や贈与では印鑑証明書は必須です)

しかし、権利証を紛失して事前通知制度を利用する場合は、例外的に印鑑証明書の添付が求められます。通知書に押された抵当権者の印鑑を照合するために必要だからです。

事前通知制度の注意点

事前通知制度は権利証が無くても登記を受け付ける制度なので厳格な運用がされています。例えば、期限内に通知書が返送されなかった場合、通知書に押された印鑑が実印と違っていた場合などは、申請自体が却下されてしまいます。

特に売買の場合はお金が動きますので、買主が代金を払った後で売主が事前通知の返送を忘れてしまったら、お金を払ったのに買主の名義にならないという大変な事態が起こります。
従って、売買の実務の現場では事前通知はまず利用されません。売買の時は本人確認情報を利用するのが一般的です。

贈与の場合も、却下されてしまうリスクがあるので、確実に一回の手続で済ませたい場合は、事前通知制度は避けた方が良いでしょう。

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生前贈与

7月 07 2021

数次相続の中間省略登記 相続登記(25)

数次相続とは

登記名義人が死亡した後、遺産分割協議を決着させる前に法定相続人の一人が死亡した場合、専門用語で数次相続といいます。

例えば、Aが死亡して法定相続人が妻Bと長男Cだった場合、遺産分割協議の前に長男Cが死亡してしまい、長男Cの法定相続人はCの妻Dと、Cの長女Eだったというようなケースです。

中間省略登記とは

数次相続の場合、原則どおりなら相続登記(名義変更)は2回行わなければなりません。Aの相続登記を行ってから、次にCの相続登記を行うことになります。
これだと手続きを2回行うことになるので、登録免許税も2回支払うことになります。

しかし、ある条件を満たした場合、中間省略登記と言って2回分の相続登記を1回で済ませることができるのです。中間省略登記だと、支払う登録免許税も1回で済み非常にお得です。

中間省略登記の条件

数次相続で中間省略登記を行える条件は、「途中の相続が単独相続であること」です。単独相続とは、相続人が一人であることを言います。

事例の場合で言うと、Aの法定相続人は妻Bと長男Cの二人です。
このままでは中間省略登記はできません。

この場合、BとCの法定相続人で遺産分割協議をして、Aの相続人をCのみにしてしまえば単独相続になり、中間省略登記が使えるようになります(単独で相続するのは途中で亡くなった相続人です)。

この時の遺産分割協議に参加する法定相続人は、B・D・Eの3人になります。DとEは、死亡したCからAの相続権を受け継いだ形で参加します。

※単独相続でなければならないのは途中の相続のみです。最終の相続人(この場合はCの相続人)は二人でも構いません。
※数次相続の中間省略登記の原因日付は以下のようになります。
平成〇年〇月〇日C相続(日付はAの死亡日)
令和〇年〇月〇日相続(日付はCの死亡日)

間違えやすい代襲相続

数次相続と似ているため間違えやすいケースに代襲相続があります。

例えば上記のケースで、Aが死亡するよりも前に長男Cが死亡してしまったら、数次相続ではなくて代襲相続の問題になります。

数次相続か代襲相続かを決めるポイントは死亡の順番です。
Aが死亡するより前にCが死亡した場合は、Cには子がいますので、Cの長女EがCの代わりにAの遺産の分割協議に参加することになります。

ここで重要なのが、代襲相続の場合はCの妻Dは分割協議に参加できないということです。

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相続登記

4月 26 2021

相続登記における登録免許税の免税措置 相続登記(24)

最近、問題となっている所有者不明土地問題に対処するため、相続登記を義務化する仕組みが国会で成立しました。
他にも更なる相続登記の推進のために、登記にかかる登録免許税を条件付で免税する措置も設けられています。

上記の免税措置は今年の3月末で期限が切れる予定でしたが、来年3月末まで延長されました。
全部で2種類の免税措置が用意されています。これから順番に説明していきましょう。

相続により土地を取得した方が相続登記をしないで死亡した場合

個人が相続により土地の所有権を取得した場合において,取得した個人が土地の所有権の相続の登記を受ける前に死亡した時は、令和4年(2022年)3月31日までの間であれば、該当する相続の登記については,登録免許税を課さないこととされました。

上記のケースで免税を受けることができる相続登記の申請のイメージは,以下のとおりです。

現在、登記簿に記載された登記名義人となっている被相続人Aから相続人Bが相続により土地の所有権を取得しました。
ところが、その相続登記をしないまま相続人Bが亡くなってしまいました。この場合、相続人Bをその土地の登記名義人とするための相続登記については、登録免許税が免税となります。

この時、注意すべきポイントが2つあります。
1つは、相続人Bは亡くなっていますから第二の相続が発生しています。第二の相続の相続人をCとした場合、一般的にはAからBの相続登記と、BからCの相続登記の2種類の登記が必要になります(1種類でできるケースもあります)。

この場合、上記の免税措置の対象になるのは、AからBの相続登記だけです。BからCの相続登記については通常どおり登録免許税がかかります。

2つ目は、上記のような場合に、必ずしもCがその土地を相続している必要はなく、例えばBが生前にその土地を第三者に売却していたとしても、AからBの相続登記の登録免許税は免税となります。

市街化区域外の土地で、相続登記の促進を特に図る必要があるものとして法務大臣が指定する土地のうち、不動産の評価額が10万円以下の土地の場合
土地について相続登記(所有権移転)又は表題部所有者の相続人が所有権保存の登記を受ける場合において,以下の3つの条件に当てはまる時は、令和4年(2022年)3月31日までの間,登録免許税を課さないこととされました。

  1. その土地が市街化区域外の土地であること。
  2. 相続登記の促進を特に図る必要があるものとして,法務大臣が指定する土地であること。
  3. 不動産の評価額が10万円以下の土地であること。

ただし、不動産の所有権の持分の取得に係るものである場合は,当該不動産全体の評価額に持分の割合を乗じて計算した額となります。  

市街化区域外とは何か、を理解するためには市街化区域を理解する必要があります。市街化区域とは、住宅をどんどん建てて住んでもいいですよ、という土地の事です。人が暮らす都市としての機能を有する区域のことです。都会は市街化区域が多いということになります。

ということは、「市街化区域外」とは、住宅があまり建っていないような土地、となります。目的の土地がどちらかを正確に知るためには、役所に問い合わせるのが確実です。

法務大臣が指定する土地は、各法務局のホームページに記載されています。ただし、地域によってはかなり大雑把にしか指定されていない部分もあるので、その場合は逐一登記を申請する予定の法務局に確認する必要があります。

この免税措置については当初は所有権移転の相続登記のみが対象でしたが、後から「表題部所有者の相続人が所有権保存の登記を受ける場合」が追加されました。

表題部とは、登記簿の一番上に記載されている部分で、土地や建物の現況(構造や面積など)を表している部分です。
この表題部に所有者欄があって、そこに記載されているのが表題部所有者になります。

表題部所有者は暫定的な権利の表示なので、正式な権利の表示をするには所有権保存登記を受けなければなりません。この登記を受ける前に表題部所有者が亡くなってしまった場合は、相続人が所有権保存登記を受けることになります。

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相続登記

1月 26 2021

名古屋市の評価証明書は原本の添付が不要です 相続登記(23)

今回は、相続登記における固定資産評価証明書の取り扱いに関するお話です。

固定資産評価額とは?

日本の不動産には固定資産税という税金がかかります。1年に1回、毎年4月から5月頃に固定資産税通知書(納付書)と言う書類が役所から発行されて、不動産所有者のもとに郵送されてきます。この固定資産税を計算する元になっている不動産の価格を固定資産評価額と言います。

相続登記をする場合、登録免許税という税金がかかります。実はこの登録免許税も固定資産評価額を基準にして計算するようになっています(相続登記の登録免許税は固定資産評価額の0.4%です)。

固定資産評価証明書

固定資産評価額を公的に証明した書類のことを固定資産評価証明書と言います。通常は市町村役場の税務課で取得できます。場所によっては市町村税事務所で取得する場合もあります。(固定資産税は市町村税なので)

固定資産評価証明書は土地と建物に分かれているケースが多いので、通常の土地付一戸建の場合、2通取得する必要があります(1通にまとまっているケースもあります)。

ちなみに、毎年送られてくる固定資産税通知書(納付書)に固定資産税の明細が必ず添付されているので、その明細でも固定資産評価額の公的な証明になります。こちらの方が無料ですし、役所に行く手間も省けるので便利です。

名古屋市の場合、原本の添付が不要です。

この固定資産評価証明書や明細は、相続登記の必須添付書類です。なぜなら登記申請の際に支払う登録免許税の計算の元になっているからです。そして、相続登記の添付書類は原則として原本を添付しなければなりません。
しかし、名古屋市の不動産の場合、例外的にコピーの添付が法務局で認められています。オンラインで原本の確認ができるようになったからだと説明されています。
現在、内閣の方針としてオンラインを進めていくと明言していますから、今後は原本不要の地域が増えていくことが予想されますね。

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